スーパーファミコン用ソフト

『サイバリオン』

販売…東芝EMI     購入価格 2000円ぐらい




■第一章『MTJ氏』


…かつて、タイトー社
『ヴォルフィード』『サイバリオン』など、
一見奇抜ながらも、ゲーム性と呼ばれる物に
シッカリ根ざしたシステムを構築する企画者がおられました。


「MTJさん」と申しまして、
たしか本名は『三辻さん』だったと思います。

 我が心の師匠『見城こうじ氏』も絶賛しておられた方で、
80年代後半ごろに故「ゲーメスト」でコラムも
持っていらっしゃいました。

僕が読んだころは『サイバリオン』の開発苦労話を語っておられまして、
「自分だけ残業して作品パーツを作成」したり、
「そんなに根(こん)を詰めるな、といった事を周りから言われた」りした
経験を語っておられましたが、学生の自分の目からも
『この人、なんか社内で孤立してるなー』
と感じたものです。


…職人気質の方なのでしょう。

会社のような全体主義の組織内では、
(自他ともに)居心地の悪さを感じていたのではないでしょうか。


…でも、そんなことに関わらず、彼の作るゲームが、
キッチリと攻略性があって遊んでいて楽しい、
という事は確かです。


社内においてトラブルも起こさず
円滑な人間関係を築ける人物はたしかに大事でしょうが、
それはメーカー側の都合でしかなく、
ユーザーである僕達にとっては全くと言っていいほど無関係です。

僕達が求めるのは『いい人』ではなく
『面白いゲームが作れる人』なのです。



…「MTJさん」は、現在は独立されて
少人数相手のゲームスクールを営まれているようですが、
また、ゲーム制作の現場に戻られることを
密かに待ち望んでいたりする私です。




…えー、話が横道にそれてしまいましたね、申し訳ない。 

そんな「MTJさん」の意欲作を、
「東芝EMI」が移植したのが
SFC版『サイバリオン』なのです。


嬉々として購入してみた私の運命やいかに

(もう、大方よめたと思いますが)




■第二章『サイバリオン』


『サイバリオン』とは、
「宇宙刑事ギャバン」がマクー空間に引きずり込まれる際に
イカすポーズで乗り込んでいた三輪オートバイ…
て、
そりゃ『サイバリアン』ですね。

ヤング置いてけぼり。 



…で、もとい。 『サイバリオン』とは、
全方向任意スクロール型のアクションゲームです。

長い体躯を持つ「龍型」の自機を操り、
連続使用時間に制限のある火炎バーナーで敵をなぎ倒しながら、
入り組んではいるが基本的には1本道の通路のワナを攻略し、
行き止まりで待ち構える巨大ボスを破壊すればステージクリアで、
全5ステージです。



…ただの「5ステージ」ではありません。

なんと当作品は
「プレイするごとにランダムで迷宮を自動作成」
してしまうのです。


…ランダムにダンジョンを作成することで
毎回異なるスリルと楽しさを提供する意味で
「1000回遊べるRPG」と銘打たれた
『トルネコの大冒険』(チュンソフト)が、
コンシューマ機に姿を現すに先んずること5年。


「プレイのパターン化」が嘆かれる80年代終盤に、
その問題に対する解答の1つが既に出されていたことに、
彼の先見性と実行力の凄さを感じずにはいられません。


もちろん全く問題が無かったわけではありませんが
(迷路の形状による難易度のバラ付きや、
1本道なために全体的なバリエーションが不足したこと等)

皆が足踏みする状況の中にあって
「自分のポリシーに反しない範囲での
革新となる1歩を踏み出した行為」

は素晴らしいものであったと思います。

さらにハッキリ言ってしまえば、当時の世にあふれていた
「過去の作品の遺産(アイデア)を食いつぶすだけの連中」に、
『サイバリオン』の製作者の姿勢をどうこう言う
権利があるとは言いがたいのではないでしょうか ?




…話を「ゲームシステム」のほうに戻しましょう。

当ゲームの主人公が動かすのは『龍型』のメカです。
 潜水艦のように前後に長ーい自機は
「トラックボール」によって操作します。

珍しい操作システムではありますが、
ボールを素早く回せば高速移動し、
小さく回せば回転して身を縮める動きを見ていると、
龍との一体感を感じさせる「トラックボール」無しには
当作品の魅力は語れない、
とも思えるのです。



…ところでこの龍、『セイントドラゴン』(ジャレコ)よろしく
「頭以外は無敵」かと思いきや、
実は「全身これ当り判定」なのです。

そのため、迅速かつ正確に動いて敵を焼き払わなねば
「敵に囲まれタコ殴りの末、ご臨終。」
というケースも珍しくありません。


当作品に「とっつきにくさ」を感じる点があるとすれば、
この『当り判定のデカさによる障害物の避けにくさ』
筆頭でしょう。

この点がもう少しゆるければ… と思うにつけ、
残念な思いでいっぱいになります。



…以上を基本として、画面外から迫ってくるザコ敵どもを
あるいは破壊し、あるいは回避しつつゴールを目指すゲーム、
それが『サイバリオン』なのです。

SFCへの移植は成功したのでしょうか ?

早速、遊んでみようと思います。




■第三章『東芝EMI』


…正直、不安がありました。

『サイバリオン』のSFC移植メーカーは
「タイトー」ではなく『東芝EMI』だったのです。

ご存知の方も多いと思いますが、『東芝EMI』は
ゲームメーカーではないので、この場合考えられるのは
「名も無い外注メーカーによる委託製作」でしょう。

外注メーカーはダメ、とは言いませんが、
「オーナーが製作資金を出ししぶったり」、
逆に「外注メーカーに実力が無かったり」など、
自社のみで製作するとき以上に
問題の発生率が高いのが実状です。



…で、『サイバリオン』ですが、
グラフィック等は案外イイ感じに移植されています。


が、いきなり音楽が
『すぎやまこういち先生』
になっています。

メタリックで宇宙的イメージ漂う『サイバリオン』の音楽を、
オーケストラのぬくもりを身上とする
『すぎやま先生』に書かせるとは…


『オンザロックの上に乗せた、だし巻き卵』
とでも表現すべきミスマッチぶりに、
いきなり腰が引けました。



祈るような思いでゲームスタート。

「トラックボール」が「十字ボタン」になった違和感はありますが、
SFC上で動くことを考えれば仕方ない変更でしょう。



…問題は「ザコの出現のしかた」です。

オリジナルでは画面外からジワジワーと近付いてきていた敵が、
いきなり自機の周りを囲むようにワープアウトしてくるのです。

おそらくプログラマの技量不足だと思いますが、
こんなのいくらでも「それっぽく」誤魔化せる
ような気がするのですが…


…『気がする』と言って嘆いてみても、現実問題として
「いきなりワープアウト」してくることに
変わりは無いので、泣きたくなりますね、ザコ。

スイスイーと飛んでいたところに、
なんの前触れも無く目前に登場するザコ
憎らしさときたら…


『だーるまさんがーこーろんだ♪』という遊びがありますが、
あの掛け声無しに「いきなり鬼が振り返る」みたいなもので、
避けるのはほぼ不可能。

対処法としては、
ジワーリジワリと自機を動かしていく以外に無く、
ゲームのスピード感皆無といえます。


他の部分は結構うまく似せているのに、
なぜこんな小さな部分をミスって
全体を台無しにしてしまったのでしょう。

腹も立ちますが、それ以上に
不思議でならないのです。



…と言うわけでSFC版『サイバリオン』の総評をば。

見た目はなかなか似ていますが、
「敵の出現の仕方」のただ1点のせいで
全然別のゲームになってしまっています。

楽しく遊べません。

ヒドいですね。



…練りこまれたシステムは、人体の構造と同じで
「絶妙のバランス」によって成り立っています。

どれ1つとして欠かせない要素で構成されていることと、
欠かすからにはそれ相当の代替品が必要になることを
移植スタッフの皆さんは胆に命じて下さい。


こんちくしょう。



戻る