スーパーファミコン用ソフト
『ロゴスパニック』
販売…ユタカ
購入価格 380円
■第一章 『はじめに』
…『ロゴスパニック ごあいさつ』は、アクションパズルゲームです。
ルールとしては、
手元にランダムに出現する文字カードを、
縦5横5の「25マス」のフィールドに撃ち出して、
規定の「単語」を完成させればそのカードが消えます。
カードを消せずに、フィールド内がカードでいっぱいに
なってしまったらゲームオーバーです。
…などと話だけ聞くと、
けっこう普通のアクションゲームのような
気がしますでしょう ?
そんなアナタは、ぜひ実際に遊んでみて下さい。
お金がもったいないという方は、この批評だけ読んで
世界の真実に驚愕して下さい。
この広い世界には、こんな代物も存在するのですね。
■第二章 『しりあがり寿 超協力』
…当ゲームは、どうやら
『しりあがり寿 超協力』だそうです。
普通の人にはただの暗号か狂人のたわごと
にしか聞こえない売り文句ですが、要は
『ヒゲのOL』などで有名(?)な漫画家「しりあがり寿」さんが、
超が付くほど協力して下さいましたよ
というイカしたゲームなわけですね。
…たしかにマニュアルには、
氏のイラストや4コマ漫画が豊富に載っており、
なるほど、「超」協力であるなぁと
小生しみじみと感じ入りました次第。
…これが『チョ〜協力』だとたいへんですね。
シブヤを徘徊している彼女たちに協力されてしまいますか ?
化粧で疲れた不健康に荒れた肌を
日焼けサロンで黄土色に焦がし、
ツラに負けじと黄土色に脱色した髪と、
目元・くちびるに集中砲火の如くまき散らした銀箔…
さらには『ルーズソックス (いまだに)』
『鼻ピアス (牛かよ)』
『蛍光色の携帯 (彼氏のプリクラ付き) (しかもハート枠)』
『両手いっぱいの指輪 (彼氏謹製) (バッチまがい物)』で、
フルオペレーション・ガンダムばりに重装備した、
「知性」という単語の一切を粉砕するために生み出された
エリートの貫禄すら漂う彼女たちに。
協力してくれたのが「しりあがり寿」で
本当に、本当に良かったと、
心から感謝する日々です。
…なお、当ゲームの登場キャラは
氏のマンガ『おしごと』の登場人物になっております。
氏が「元サラリーマンだった漫画家」だけあって、
描かれる社会人には、他のマンガでは中々味わえない
リアルな存在感があります。
「宴会時だけ張り切る者」
「上下の圧力で精神的不調をきたして
奇怪な行動を取る中間管理者」
「部下の注意を引こうと大げさな行動を取って
浮いてしまう部長」などなど、
他人事とは思えない面々には
「不快感」と「親近感」を覚えずにはいられません。
■第三章 『基本システム』
…では、お待ちかねの
「ゲームシステム」の説明に入りましょう。
プレイヤーは、『ランダムで現れる文字カード』を
『縦5・横5のフィールド』に撃ち出して、
フィールドがいっぱいにならないように
『単語を作ってカードを消していく』ことで
ゲームを進めます。
…ただし、「単語として認められる言葉」
(選んだキャラクタによって異なります) は、
3つだけです。
例えば、ヒロイン『ヨモヤマハナコ』を選んだ場合は…
『ぶほー』
『よいしょー』
『もしししっ』
という並びを作ると「単語」として認められます。
…他のキャラの使える単語を並べても
何も起こらないので注意が必要ですね。
参考までに他のキャラの使用単語を見てみますと…
『あよーんす』
『なんぼで』
『めめめーし』
『ぷしゅう』
:
:
:
…現実での使用確率が「10のマイナス〜乗」
といっても過言ではない単語群ですが、
ゲームに勝つためには憶えてください。
対戦格闘ゲームの必殺技コマンドを憶える感じで。
くりかえし呟(つぶや)いてみると
憶えが早いかもしれませんね。
あよーんす
あよーんす
あよーんす
あよーんす…
死んだほうがいいかも。
…単語も憶えたことだし、それでは、
いよいよゲームを始めてみましょう。
画面下の地蔵のような物体が抱えている文字カードが、
今から撃ち出すカードです。
地蔵は左右に動かせます。
そして、地蔵の上のほうのフィールド内で
ゆっくり上下をくりかえす青いカーソルが、
撃ち出した後にカードが着地する場所です。
思い通りの場所にカードを置くには、
このカーソルの動くタイミングを体で覚えなければいけないあたり
しち面倒くさい アクション性が高いですね。
うっかりタイミングを逃すと、
カーソルが戻ってくるまでの1秒間は何もできない
歯がゆさが味わえる点も
「滅多に出会えない貴重な体験」として、
評価されるべきでしょう。 ←されません
…これらの操作システムからは、
日々時計に追われセカセカと生きる現代人
に対する製作者のアンチテーゼが垣間見られ、
我々はその真意を謙虚に受け止めるべきであると
痛感する次第です。
実は、「どこにでも自由にカードが置ける」ような
操作システムだと、ゲームが簡単になりすぎる事に
『開発途中』に気付いてしまい、
慌ててプレイヤーのミスを誘いやすい
操作システムに差し換えたのでは ?
とか邪推するのは製作者に対して失礼です。
■第四章 『プレイ状況』
…では、カードを撃ち出して単語を作りまくりましょう。
えーい、ピシュピシュピシュー、
バシバシー、それー、
ピポピポ、ブチュンチュンチュン…
…ごめんなさいねぇ、精神年齢が低くて。
それにしても全然思い通りに単語がそろわなくて
イライラしますね。
それもそのはず。
有効な単語は「3つ」しかないのに、
ランダムで出現する文字カードの種類は「数10種類」
にも及ぶため、3枚のうち2枚は
「ただのジャマ物」でしかないのです。
…『すでにカードが置かれている場所に
ピッタリとカーソルを合わせてカードを撃ち出し、
そこにあったカードを消して新しいカードを置く』
というテクニックもあるにはあります。
が、ちょっとでも撃ち出すタイミングがズレれば、
古いカードが別の場所に移動するだけで消えないので
どんどん古いカードが溜まり、
ついにはゲームオーバーになってしまうのです。
…さらには、『文字カードの種類の多さ』が
遊びにくさに拍車をかけています。
つまり、例えば前述の「ヨモヤマハナコ」で
プレイ中に、『っ』のカードが来たとしたら、
それを単語として並べるためには
何が何でも「フィールドの端」に
置く必要があります。
(「っ」が使える唯一の単語『もしししっ』が5文字で、
フィールドの幅も『5』だからです)
それをウッカリ端以外に置いたりすると、
せっかくの「単語を作れる文字」もアッと言う間に
『ただのジャマ物』に早変わりというキビしさには
製作者の『遊び』に対する概念を疑うばかりです。
…バックに流れる陰鬱かつ単調なBGMも相まって、
「ゲーム」で遊んでいるはずなのに
『仕事』をやらされているような
空しさと哀しさが心に充満します。
…ゲームを作る際に、
『ゲーム的快感』を突き詰めるため、
余分な枝葉 (要素) を取っぱらう
という改良はよくやりますが、
勢い余って
『ゲーム的快感』も取っぱらってしまった
のが当ゲームなのでしょう。
既成の概念にとらわれない
フロンティアスピリッツあふれる当ゲームの企画者が、
どこかで首を吊っていないことを祈るばかりです。
■第五章 『就職志願の男』
…実は私が当ゲームを買った理由を説明するには、
1994年ごろまで時間をさかのぼる必要があります。
当時、『日本テレネッ●ト』という
ゲスな メーカーに勤めていた私は、仕事柄たまたま、
『同社に就職を希望するが
幸運にも 残念ながら不採用となった男性』
(他の希望者も似たり寄ったりのレベルだったと記憶しますが…)
が選考用に送ってきた企画書を目にする機会がありました。
それは、当時人気のあった「落ち物パズル」の企画であり、
『上から降ってくる漢字パーツ (40種類ほど) を
組み合わせて「四字熟語」を作る』という物でした。
「パーツが積みあがっていく」落ち物ゲームの性質上、
うまく足場を作って「文字を一列に並べる」のが難しい
のはモチロンですが、それ以前にこのシステムが
大問題を抱えていることは、
「第四章」をすでに読まれたアナタにとっては
苦も無く理解できることでしょう。
(並べるのに失敗した文字は、位置によっては
ほぼ『消すことが不可能』になってしまうのです。)
…『コラムス』(セガ) などの「落ち物パズル」の名作が、
『宝石のような単純な形』のものを
『せいぜい5〜6種類だけ』という
単純かつ少数で構成されているのには、
『人間が判断してそろえられるゲームバランスをキープする』
という大事な理由があるのです。
その範疇を見誤ったゲームは、
「もはやゲームとして機能しない」ということを、
企画書を持ち込んだ彼はあの後気がついたのでしょうか ?
…よっぽど、問題点を指摘した手紙を
(個人的に) 出そうかと思ったのですが、
結局出さずじまいだった彼。
アイデア面では問題だらけでも、
手書きの、とても丁寧な企画書を送ってきた彼。
…あれから7年経ったある日、
中古ショップで『ロゴスパニック』を見たときに、
このゲームを購入するフン切りをつけたのは、
あの彼の企画書でした。
あの時は「問題アリ」に思えたけど、
実際に動く形になってみれば、もしかしたら…
という淡い思いは、彼の企画書よりも、
むしろその丁寧な書き方から感じた
「彼という人物に対する好印象」によるもの
だったのだと今では理解できます。
…結局、7年前の僕の指摘は的を得ており、
自分の分析力に対する少しの満足感と、
小さな寂しさが胸に沸いたのでした。
なんか、しめっぽい話で締めくくってアレですが…
『ロゴスパニック』のヘボいゲーム性の向こうに、
ふと、あの日のほろ苦い思いを
垣間見たりもした僕なのです。
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