セガサターン用ソフト

『首領蜂(ドンパチ)』

販売…アトラス  (開発…ケイブ)        購入価格 1900円




■第一章『分析なぞ』


1990年代のシューティングゲームの変遷を語る上で
決して外すことのできない作品といえば、
間違いなく当ゲームは筆頭でしょう。


その名も『首領蜂(ドンパチ)』。

シューティングメーカーの雄「東亜プラン」の流れをくむ
「ケイブ」社制作の当作品は、東亜プラン時代に培(つちか)った
『ボンバーによる一発逆転性』を柱としながら、
それに甘えない独創的なアイデア群を引っさげて
停滞するシューティング業界に殴り込みをかけたのです
オラアァ。 ←筆者ヒートアップ気味



…これ以降に他メーカーが制作する
ほとんどのシューティングゲームが、多かれ少なかれ
『「首領蜂(ドンパチ)」のシステムを基盤として、
各々の独自性を出そうとしている』
ことからも、
当作品のアイデアの優秀さや、
同業者に与えた影響力の凄まじさを感じます。



…そこで今回は、批評よりもむしろ「分析」をメインとして、
当作品のアイデアがどれほど革新的であったか
ジックリと味わってみようと思います。


その難度の高さから、ユーザーに敬遠されがちな
昨今のシューティングゲームですが、
そんな中でも育(はぐく)まれつづける
良質なアイデアの一端を感じてもらえれば幸いです。

…ではでは、始めましょう。





■第二章『システム考察』


「当作品の優秀なアイデア」と言っても、
細かく挙げればキリが無いので、
特に高い独創性を持つアイデア「3つ」
しぼって検証してみましょう。



■コンボ■

…それ以前は「アクションパズル」か「対戦格闘」でしか
見られなかった『コンボ(連続破壊)システム』の導入によって、
「より高い得点・より高度なプレイ」
追究する楽しみが増えました。

…これは、
「敵を倒した後に、一定時間以内に次の敵を倒す」
という行為をくりかえすことによって、
手に入る得点がドンドン跳ね上がるというシステムです。


…コンボを成立させやすくするためには、
できるだけ画面内に敵を残しつつ、
こまめに敵を倒す必要があります。

わざと敵を撃たないわけですから、
当然、油断が即「死」に直結する危険もはらみますが、
それに報いる「ケタ違いに高い点数」のバランスが絶妙で、
プレイヤーの挑戦意欲をそそります。



…また、敵配置をよく観察してみると、
敵の集中攻撃の合間に何げなくフラついているようなザコが、
実は『次の集中攻撃までコンボを持続させるための橋渡し』
の役目を持っていたりします。

『配置の秀逸さ』に驚かされると同時に、
『システムを活かしたゲーム構成』というものを熟知した
手馴れた作り唸らされます。



■極太レーザー■

…ショットボタンを1秒ほど押しっぱなしにすることで、
高い攻撃力を誇るレーザーを前方に集中放射します。

過去の作品でもたびたび使用されてきたアイデアですが、
『R−TYPE』(アイレム) ほど発射に時間がかからず、
『メタルブラック』(タイトー) のように
使用制限があるわけでもありません。


場面場面によって「通常ショット」と「レーザー」を
使い分けて戦うゲーム、
という思い切ったシステムのおかげで
その爽快感は同系列のゲームの中でも群を抜いています。



…あえてリスクを挙げれば、レーザー発射中は
『自機の移動スピードが半分ほど』になってしまいますが、
実はこのリスクによって
『自機をこまめかつ正確に移動させやすく』なり、
弾が除けやすくなる場合があるのです。

そのため、ステージボスのように
「隙間無く大量の弾を撃ってくる敵」に対しては、
移動が遅くなるリスクを逆手にとった
「レーザー」主体の戦法が有利な場合が多く、
結果、巨大な敵に極太のレーザーが炸裂する
豪快なボス戦が展開されるのです。


…恐らく、当ゲームの企画者の方も
『ボス戦ではレーザー主体の豪快な戦い方をしてほしい』
と考えたのでしょう。

そして、
プレイヤーがボス戦で自然とレーザーを使用するよう、
レーザー主体で戦うほうが有利になる状況設定にした

のではないでしょうか ?

この企画力には恐れ入ります。



■弾除け■

…さて、いよいよ当ゲーム最大の「売り」にして、
これ以降のシューティングゲームの流れを変えたアイデア、
『弾除け重視のゲーム構成』をご説明しましょう。


…今まで、シューティングゲームで
画面内にバラまかれる敵の弾数は、
せいぜい数10個、多くても50個程度でありました。

ところが『首領蜂』は、
最初のほうから50個ほど、
後半になると軽く100個以上が飛び交う
地獄のような弾幕の嵐を
かいくぐるゲーム
なのです。


100発の弾幕なんて、それまでは
「スプライトの表示限界テスト」
でもなければお目にかかれない光景だったので、
それがゲーセンのディスプレイ上で動いているのを見たときは
色んな意味で隔世の感があったものです。



…話だけ聞くと、なぜそのような苦行を味わうために
金を払わなければならぬのか、と
首を傾げる方も多いのではないでしょうか ?

そこで試しに、そのような方に
『首領蜂』を遊んでいただくとします。

とんでもない数の弾に愕然として
除ける気力すら無くなってしまうかもしれませんが、
実際に動かして遊んでみると
「けっこう除けれてしまう」ことに驚くことでしょう。



…これこそが、「当作品の作りの上手さ」の
最たる部分なのです。

実は、当ゲームの自機の「当り判定」
(敵弾に当たるとミスになる部分)
は、
信じられないほど小さく設定されており、
自機コクピット付近の「小指の爪」ほどの範囲が
弾にぶつからないかぎりは、決してミスにはならないのです。


プレイ当初に感じていた「大量の敵弾に対する恐怖」は、
「思っていた以上に除けられる」ことに気付いた瞬間から、
『適度な緊張感』
『弾除けという行為の楽しさの発見』
に生まれ変わり、
当ゲームでしか味わえない快感
へと変化していくのです。



…この快感は、プレイヤーだけではなく
周りのギャラリーをも沸かせます。

実際、筆者も行きつけのゲーセンで、
『首領蜂』をプレイする男性と、それに歓声を上げる彼女
というカップルをたびたび見かけました。

恐らくはシューティングなど触れたことも無いような
女性に歓声を上げさせるほど、
『首領蜂』の「弾除け」の見た目のインパクト
強烈であった証といえます。



…そして、この『ギャラリーにウケる』という要素が、
プレイヤー達が多かれ少なかれ持っている
『他人に自分の技術を見せつけてやりたい』
という欲求を満足させ、
当作品で味わえる快感相乗的に増すわけです。


『ギャラリーにウケるゲームは商品として強い』とは、
常々言われてきたことですが、当作品は、
「見た目のインパクト」「独自のゲーム性」の2つを
両立させるアイデアに気付いただけにとどまらず、
キッチリと『形』にまとめあげたという点で、
巷にあふれる商品群とは明らかに一線を画した位置にある
傑作と断言できます。



…付け加えるならば、
このゲームには『弾除け』に専念できるよう、
様々なアイデアが散りばめられています。

例えば「弾自体を大きくし、速度を緩やかにする」ことで、
プレイヤーが弾道をよみやすいようにしています。


…また、ここが大事なのですが、
『敵弾のプライオリティ(表示位置)を
画面の最も手前にもってくる』
ことで、
弾が他のキャラによって隠されたせいで不本意な死をとげる
といった事が無いよう配慮
されています。


文章にしてみれば、誰でも気付くような
小さなアイデアに聞こえるかも知れませんが、
筆者は、この点についての配慮の欠けた駄目ゲー
最近でも出会う
ことがあり、隠れた敵弾にやられる不本意さに
涙で枕を濡らすことも度々です。



…企画者といえどもピンからキリまであります。

他人の作品から、柱となるアイデアは簡単に習得しても、
細やかな心遣いにまで思いを巡らせ実行できる実力者
ほんの一握りなのです。


これをお読みの皆様も『首領蜂』を通して、
そんな実力ある企画者の手腕
触れられてみることをお薦めします。





■第三章『最後に難を言えば…』


…まさに「ベタ誉め」の感のある文章になりましたが、
最後に当作品の難点を挙げたいと思います。

クドクドと回りくどい言い方をせず、
ズバリ一言で申し上げますが、
なんだかんだ言ってもやっぱり
難度高すぎです。


最初にも言いましたが、
昨今のシューティングの例に漏れず、
当ゲームの難易度は飛び抜けています。

慣れていない者にとっては、何が起こったのかを
把握する間も無く
撃墜されていることでしょう。


あんまりです(泣)



…あと、もう1件。

当作品が売れた後、シューティング業界は
「破壊の快感」から『除けの快感』へと
マーケットを移行していくわけですが、正直、僕は
今 (2001年現在) の『除け中心のシューティングゲーム』
あまり好きになれません。


いきなり個人的な好みの問題に
話がシフトしたように思われるかもしれませんが、
今のような『除け中心』のゲームが
「シューティング」という形態を取りつづけることに
意味があるのか?


そもそも、これのどこが「シューティング」なのか ?
という疑問が頭から離れないのです。

皆さんの中にも、そんな疑問をお持ちの方が
いらっしゃるのではないでしょうか。


これをお読みのアナタも、
ショットボタンの存在意義すら疑問視してしまうゲーム
どこかで出会ったことはありませんか?



…私はかつて、シューティングゲームのシステムの中に、
『ジャマする敵を力でねじ伏せ、
勝利を自力でもぎ取る快感』

を見出しました。

今のシューティングからは、
そのテイストが昔ほど感じられません。


敵を見ないで弾だけ見て、
ボス戦ではショットボタンを押しっぱなしにして
ボスが死ぬまで目先の弾を除けつづけるという、
『待ってればそのうち…』といった
消極的な姿勢を奨励したシステムが
嘆かわしいです。




…その創始者たる『首領蜂』というゲームを
「恨めしく思っていない」と言えばウソになります。


が、作品単体で見れば
『首領蜂』は間違いなく秀作であり、
『首領蜂』自体には「破壊の快感」
タップリ盛り込まれているわけで、
しかもそれを受けて「弾除け」にしぼったシステムを
濫発したのは他メーカーの責任である
とも言えるでしょう。


そう考えれば、『首領蜂』に怒りの矛先を向けるのは
筋違いのようにも思えるのです。




…と、色々言ってまいりましたが、
結論を簡潔に申し上げますと、

けっこう好きです、『首領蜂』。


…そして、

尊敬してます、『首領蜂』の企画者さん。


以上 !




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