ウインドウズ用ソフト


『恐怖の花子さん』


制作:夢鳥              プレイ時間 :「クリア1回」

フリーウェア            執筆日:2003年 9月22日





■第一章 『これは!』


『恐怖の花子さん』(夢鳥)は、
選択式の怪談アドベンチャーゲームです。


…正直、全然期待していませんでした。

怪談好きの僕ですが、
世の中にあふれる怪談(各種メディア・プロアマ含めて)8割以上は、
『超常的な現象を羅列しただけ』
『怪談にかこつけて、青臭い人生論・人間愛を押し付けるだけ』
『実は、製作者が腹の底に抱えている、社会への泣き言』

でしかなく、読んでるだけで
不快感でゲロが出そうになることが多々あったからです。


なので、この作品も、
フリーウェアのレベルを知るためにダウンロードしたから
『仕方ねぇから、やるか』ぐらいの気持ちで、
イヤイヤ遊び始めたのでした。





と、ところがです!

表示されたタイトル画面を見て、僕は愕然としました。

そして、確信しました。
『このゲームを作った人は、
怪談というものの本質を理解している』
と。

そして、その直感は的中したのです。
(どんなタイトル画面かは、ぜひご自分の目で確認して下さいね)





…では、まず「ストーリー」の概要を。


…舞台は、もちろん「小学校」
主人公は小学生の女の子です。


…ある日の放課後、クラスメイトの女の子から
『花子さんに会いに、トイレに行かない?』
もちかけられるも、それを断って帰宅した主人公。

翌日、そのクラスメイトが
トイレで惨殺されているのが発見されます。


『トイレの花子さん』とは何者なのか?

どこか親しみのある担任の女性教師
「花子を監視している」と豪語するザックバランな女性
などを巻き込んで、命がけの挑戦の果てに
明かされていく『花子』の正体とは?





…話自体は、「結論だけ取り出せば」特にヒネリも無い
普通のレベルの物語だと思います。

ですが、そんな事は問題ではありません。

注目すべきは、そして大切なのは、
その過程で表現されている内容なのです。






■第二章 『要素』


…当作品の恐怖は、だいたい
以下のような要素によって支えられています。



『目が描かれない』

『かまいたちの夜』(チュンソフト)などのサウンドノベルで、
登場人物が「影絵状態」で表現されるのはなぜだと思いますか?

『プレイヤーに、登場人物の顔形による先入観を与えない』
『想像力の余地を残すことにより、感情移入度を上げる』

あたりが、まず思い付く効果ですね。


そして、それに加えて、
『登場人物を、体温を感じさせない「物的」な表現にすることで、
プレイヤーに潜在的な孤独感を植えつけ、恐怖感を増している』

のだと、僕は思うのです。



…当作品の登場人物は、一見普通のアニメ的な姿なのですが、
全員、『目が描かれていません』

そのため、視覚的にどこか「冷たさ」があり、
言いようのない不安が常に付きまとい、
それが怪談的雰囲気づくりに一役かっています。
(性格的には「あたたかい」んですけどね、彼らは)




『「今」の女性の表現』

…ちょっと驚いたのが、登場人物である女性たちの性格
これがまた、リアルなのです。

理論よりも感情が優先される不安定さや、
どこか自分を第三者的に突き放した視点など、
この中で描かれているのは間違いなく
『現代の、日本人女性の大半』が持っている性格そのものなのです。

このゲームを作った方は、
よほど「女性」というものに造詣が深いか、
あるいはズバリ「女性の方」なのでしょう。


…僕たち「男」が描きがちな『女性像』を、
スッパリ斬り捨てるような登場人物の性格表現に、
『本物の女性の存在感』を感じて愕然とした僕です。

そしてそれが、ゲームに深みを与えているのです。




『異形は異形』

…昨今の怪談話で僕が感じている不満の1つに、
その中に込められた『浅はかな博愛主義』があります。

『たとえ幽霊であろうと、ジックリ向き合って話せば
必ず分かり合える』
という博愛的姿勢が、実は、
『全ての生き物の価値観は、自分と同じはず』という
幼児性・甘えの延長であることに、
一体どれだけの人が気付いているでしょう?


…当作品の「花子」は
間違いなく『異形』として描かれています。

気に入らなければ、小学生だろうと躊躇無く殺します。

主人公の一言が「花子」の気にさわって
「いきなり殴り殺される」(バッチリ描写付きで)
というバッドエンディングすらあります。


そもそも彼女は、『人間との共存』という
概念・価値観を持ち合わせていないのです。



…だからこそ、このゲームは怖い。

「花子」は人間ではないんだという実感が、
冷たい恐怖感とリアリティを生み、
ゲームの雰囲気を重厚にしているのです。






■第三章 『最後に』


…それにしても、まさかフリーウェアで
これほど秀逸な作品に出会えるとは。


ゲーム自体は、それほど分岐も多くないので、
セーブしつつ進めば、ほんの1〜2時間ほどで
全てを見ることができるでしょう。

興味を持たれた方は、ぜひ一度お試しを。
『Vector』でダウンロードできますんで。


『ストレートな恐怖』が欲しい方は、ぜひ。




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