プレイステーション用ソフト

『大幽霊屋敷 (だいおばけやしき)』

販売…ヴィジット    購入価格 1480円

執筆日:2002年 5月26日





■第一章『デジタル怪談』

…ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、
私こと「池袋ふき」『怪談』が大好きであります。


質の高い怪談は、現代社会…
特に「街中」で暮らす人々にとって得難くなってしまった
『暗闇に対する恐怖』を甦らせてくれる、
素晴らしいエンタテイメントであります。
(もっとも、世に出回る8割方の話はクソですが…)



…私の、怪談にかける情熱については、
当批評コーナーの『学校であった怖い話』(スーパーファミコン)
あたりをお読みいただくとして…

今回は、そんな私のお薦め、
『大幽霊屋敷(だいおばけやしき)』(ヴィジット)
をご紹介いたしましょう。




『大幽霊屋敷』は、
同系列のゲームに多く見られる、「選択肢によって
話の内容が変わるアドベンチャーゲーム」
ではなく、
完全に『怪談を聞くだけ』の構成になっています。



…大学の夏休みの間、近所のオバケ屋敷でアルバイトを
することになった主人公は、そこで働く同僚たちから
数々の怪談を聞くことになります。



一度話が始まれば、あとは相手の怪談を聞きつつ
画面を見つめるのみ
という、
「ゲーム」とは呼びがたいシステムですが、
純粋に「怖い話をジックリと楽しみたい者」にとっては
たいへんにありがたい構成と言えます。




…途中で何度も「2つの選択肢」を選ばせるシーンがあり、
その選択によって聞ける怪談が異なるのですが、
2〜3回も遊びなおせば
約50話全てのストーリーを見ることができます。


しかも、一度聞いた怪談は、後で好きなときに
何度でも聞きなおすことができる親切設計。


話の途中でも、スタートボタンで話をスキップできるので
同じ話を何度も見せられてウンザリすることもありません。




まさに、至れり尽くせり。

この作品の企画者の方は、
そこらへんを「よく分かっていらっしゃる」人のようで、
遊んでいてとても嬉しくなりました。





■第二章『語り』


…当作品が他の怪談ゲームと大きく異なる点の1つに、
『ほとんどの怪談が、文章ではなく
「人物の語り」になっている』

ことが挙げられます。


『浜村淳』を筆頭に、若い男性・女性をおりまぜた
約5名ほどの語り手によって語られる怪談の数々。




若手の語りは、正直、どこかに気取りを感じさせたり、
自分の語りの世界にハマりすぎて声の抑揚が大きくなり
耳障りだった
りして、イマイチの感があります。

が、それは、真打ちである『浜村淳』
語りのスゴさと比較してしまうからかも知れません。





…実は、『大幽霊屋敷』以前にも、「人の語り」によって
怪談を聞かせるゲームがありました。

セガサターンで発売された
『古伝降霊術 百物語』(ハドソン) というゲームがそれで、
語りを『稲村淳二』さんが務めています。
(ただ、「語り」による話は100話中10話ほどしかありませんが)

しかし、彼の口調はどこか軽く、
「恐怖に直面した」というよりは
『珍しい出来事に出会った』感じで、
聞いていてイマイチ凄みがありませんでしたね。





『浜村』の語りは、彼らに比べて
決してカッコいいものではありませんが、
だからこそ親近感・リアリティがあり、
怪談の中の主人公に感情移入しやすいです。



…加えて、『恐怖に直面した人間のとる態度』
いうものを良く心得えておられるようで、
演技が実に上手いのです。


例えば、本当の恐怖に直面した人間は
『うぉっ』とか『わぁっ』とかいう悲鳴は
あまりあげません。
(稲村氏はあげてましたが…)


肺の底からノドを通って、
かろうじて空気をしぼり出すような、
「カハカハ」した、かすれた声が漏れるだけです。


深呼吸をする心の余裕が無くなるからですね。




…こればかりは実体験を伴わないと演技するのが難しい
と思うのですが、さすが「浜村」は、
この「呼吸困難」キチンと語りに取り込んでいます。


こうやって主人公が恐怖に狼狽する描写
上手く語られれば語られるほど、
怪談で語られる恐怖体験にも、
真実味と迫力が増すというものです。


「浜村淳」氏の上質の語りと出会えただけでも、
このゲームを買った価値はあった
と、私は思っています。





■第三章『怪談の質』


…他の怪談ゲームと比べても
『大幽霊屋敷』の話の質けっこう良いです。

全体的に中ぐらいのレベルを保っており、
それに加えて、いくつか高レベルの作品が混じっているため、
印象としてはかなりイイ感じです。




…何をもって『質の高い話』とするかは、
人によって様々だと思いますが、僕の場合は…


@ 上手に、聞き手のウラをかいてくる話。

A 最後のオチを聞いたときに、それまで起こった
異常な事態に対する謎がキッチリ解ける話。

(つまり、途中にキッチリと伏線が張られている)

B 奇跡・愛に頼った安易な結末で、
お茶を濁すような真似をしていない話。





…あえて例は出しませんが、上記@〜Bをキッチリと
満たしていない、いい加減な作りの話が、
世の中にはなんと多いことでしょう。
(残念ながら当ゲーム内にも、いくつか、
そのようなカス話がまぎれこんでいますが…)






…まぁ、それは置いておいて。

当ゲームのお薦め怪談は…  そうですね…


『スイカ』や…
『燻製(くんせい)』なんかイイ感じですね。

『廊下を走る足音』なんかも面白かったです。


内容はナイショにしますから、
タイトルから内容を予想しつつ、
ぜひ自分でプレイして確かめてみて下さい。





■第四章『グラフィック・音声』


怪談ゲームでは、
グラフィックの質がたいへん重要な意味を持ちますが、
当作品のそれは、かなりイイ線いってます。


「映像を全体的に薄暗くする」ことで
闇から染み出すようなブキミな雰囲気を出し、
ケバケバしさを排した落ち着いたグラフィックからは、
じわりじわりとした怖さが感じられます。



…その内容も、
『空中から生えて、自分を捕まえようともがく腕』
だったり、

『目があるべき部分に、
真っ黒な穴が開いているだけのお婆さん』

だったり、

『腐って紫色になっている女の人』
だったりするから
たまりません。




心臓麻痺を起こさぬよう、
飼い猫をシッカリ胸に抱いてプレイしたのも
良い思い出(泣)ですね。


しかも表示タイミングがうまく、
話が途切れる短い間にCDからデータを読み込んでおき、
ここぞ、という瞬間に『グギャーン』とか
不気味な効果音と共に現れるので、
CDの読み込み音による心の準備がしづらく、
心臓に突き刺さるのです。

ううぅ。




「話が終わったようなので一息付こう」と思った瞬間に、
いきなりとどめのCGが出ることがあり、
これも実に心臓に悪かったです。
(この手のタイミングで出る映像は、
なぜか「おばあさんの幽霊」のものが多かったです。)






…そうそう、エンディングまで行くと、スタッフロールに混じって
『ゲーム中の画面の中に隠されている心霊写真』
全て表示されます。

これらは、ゲーム中に普通に使われているグラフィック
コッソリ混ぜてあるので、ゲームを遊びつつ、
『隠れた心霊写真』捜しを楽しむのも一興かと。



超常現象やスプラッタではない、『怪談らしい怪談』
純粋に楽しみたいアナタにお薦めの『大幽霊屋敷』

ぜひ遊んでみてくださいねー、皆さん。




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