プレイステーション2用


『ICO』


販売: SCE

プレイ時間 : 1周目クリア

購入価格: 1230円

執筆日: 2007年 02月21日





■第1章 『少年と少女』


『ICO』は、3Dアクションゲームです。


角が生えて生まれたため、離島の城に幽閉された少年『イコ』が、
そこで出会った少女と共に、この不思議な城から脱出するために戦います。


まずは、ゲームの大ざっぱなシステムをご紹介しましょう。




『それぞれの役割』

主人公の少年『イコ』非常に高い運動能力を持っているので、
高い場所からの落下や、敵との戦闘で能力を発揮します。

また『少女』は、運動能力の低さから移動において足手まといになる一方、
要所要所の扉を開放したり、イコ(プレイヤー)が長時間迷っていると
先に進むためのポイントを指差してヒントを与えてくれたりします。




『構成』

ゲームは、全体としては城を一巡りする物語となっていますが、
ようは『一定区間内で完結するパズル』の連続です。

移動において制限のある「少女」と一緒に、
今いる区間内にある物を活かして、いかに先に進むか?
を考える3Dパズルなのです。

そのため城の内部は、一部の例外を除いて
ほぼ「1本の道」のような構造になっており、
後戻りする必要はマレです。

この単純な構成が、逆にそれぞれの謎をその場で完結させており、
いつでも気軽にやめて、気軽に再プレイする心地にしてくれます。




『手つなぎ』

当作品最大のオリジナリティが、この『手つなぎ』です。

イコは「少女」と手をつなぐことで、
足の遅い彼女をグングン引っぱって走ったり、
高い場所から引っぱり上げたり、時には少々高い場所から
ムリヤリ飛び降りたりするなどの直接的な誘導が可能です。

「手つなぎ」中は、パッドが微妙に振動して、
少女との手つなぎ感をプレイヤーが体感できる
ようにするなどの工夫が見られます。




『呼ぶ』

離れている場所にいる少女を、イコのそばまで呼び寄せます

もちろん、途中に渡れない場所などがあると、
そこでとどまってしまいますが。

高い場所から呼べば、イコの差し出す手に
少女が小さくジャンプして手をつなぎ、それを引き上げる…

といったアクションも可能です。

主人公を信用していないとできないような
危険極まりないジャンプを決行することもあり、
演出のうまさにやられて少女が愛らしく見えてきます




『見回し』

R3スティックで、イコを中心にカメラ視点を
自由に変えられる機能、それが『見回し』です。

システムとしてはありがちですが、
周りをよく観察して気になるものを見つけ出し利用する
という当ゲームの基本コンセプトに合致していています。

ちょっとしたシステムですが、
当作品の方向性をより明確にさせている意味で、
個人的にとても良いアイディアだと思います。




『敵』

ゲーム進行の特定のタイミングで、黒い煙のようなモンスターが
「少女」をさらうために群がってきます。

イコは攻撃されても倒れるだけで、死ぬことはありません。
しかしモタモタしていると少女が彼らの(地面の黒い穴)に引き込まれ、
一定時間内に助け出さないとゲームオーバーになってしまいます。

巣は複数同時に出ることが多く、少女をさらったモンスターが
どの巣に逃げ帰るかを完全に把握するのは困難です。

しかし、今いる区域の移動経路を把握して、
それぞれの巣に最もすばやく辿り着ける場所はどこか?
を考慮した位置取りができるようになれば、
決して難しい戦いではありません。

あえて「少女がさらわれた場合」を前提に、
『少女をオトリに使った』り、『巣のそばで待機して、
いつでも少女を救出できるよう備える』
手もあります。

この位置取りの工夫も、当ゲームの『パズル』の一部と言えるでしょう。







■第2章 『良し悪し』


では恒例の、良し悪しの列挙をば。



『人生の縮図』

いきなりですが、当作品の流れに
「男の人生」の縮図 のようなものを感じました。

自分の周りを常に見回し、現在置かれている状況を把握、
時には足で情報を稼ぎ、女性を守りつつ「道」を探し作る。


元々、良質のシステムを持つゲームには
『人生のモデル化』が含まれているものですが、
この手のパズルにありがちな「適度な足かせ」を『少女』に設定したことで、
そこがより明確になった例といえるでしょう。


設定としてややベタに感じてしまう点は否めませんが…

一方で、少女の身長を少年より高くして、少年にとっての彼女を
『性的対象ではない存在』(母的・姉的)にすることで、
そのベタさをかわしているようです。

意図的にされたものだとしたら、見事なデザインと言えるでしょう。




『空間の広がり』

この作品で、遠くを見渡せる場所に来たら、
ぜひグルリと視点を動かしてみてください。

驚くほど遠くまで見渡せて、感動するのではないでしょうか?

もちろん、彼方にあってハッキリ見えない3Dモデルは
実際は大ざっぱなものなのかもしれませんし、
「霞み」という良い訳を使って有視界距離はせいぜい5〜6キロです。

それでも、その3D箱庭のサイズは従来のそれよりはるかに巨大で、
画面の中に「世界」を感じさせるに十分です。

プレイヤーが距離の長さを実感しやすいよう、また劇的な場面になりやすいよう、
カメラアングルに工夫を凝らしている箇所も見られ、
「空間」演出の面でも学ぶことの多い作品です。




『その他』


『屋外などで、不安感をあおるようにゴゥゴゥ鳴り響く


『少女を放っておくと、ゆっくりと周りを見渡すなど、
色々と愛らしい仕草を見せる』


『手をつないで走ると、2人の歩幅が違うので
ガクガクとぎこちない動きになる』


『見た目に位置のつかみにくい「天井から垂れ下がった鎖」は、
床に鎖を伝って落ちた水の跡があるので、
その場所でジャンプすれば鎖をつかめる』


『ものすごい高さにある細い橋(落ちたら死亡)
のような場面が多発するにもかかわらず、
主人公が転落直後に地形のフチにしがみつくので、
ジャンプしていない限りは100%落ちない
でも、主人公が叫んで、視点がガクン!と落ちるので、恐怖は満点。』



などなど… 細かな部分へのこだわりも多彩です。





『気になった点』

全体的によくまとまっている良作ですが、
やはり少し気になる点も…



まず、『炎の表現』がちょっと…

丸いオレンジの綿毛のようなものがポポポーと湧くような
表現になっているので、最初は何事かと思いました。



次に、『敵との混戦になると自分を見失う』ことがたびたび…
しかしこれは、他のゲームでも明確な解決に至っていない問題なので、
ある意味許容範囲とも言えます。



カメラアングルが主人公中心なので、
『ジャンプ時などに距離を誤認しやすい』こともありました。

もっとも、難度が全体的に低めに抑えられている上に、
主人公が「地形にしがみつく」ので、失敗する場面は少ないですが…



あと、『パズルの量的に、ややボリューム不足かな?』という感じがあります。



最後に、個人的に『上下する木の土台』を使ったジャンプのタイミングが、
直感的なそれとズレがある気がします。

ここだけどうしても分からなくて、
ついにネット上の攻略ページで答えを調べた悔しい思い出が…







■第3章 『物語について』


ゲームとしては実に丁寧で、視覚的楽しみにあふれた良作ですが、
だからこそ物語の中核が謎につつまれすぎている点が残念です。

「見える世界」はすばらしいのに、
背骨となる「物語としての世界」が見えづらく、
夢の中のような頼りなさがあります。

もちろん、細部をボカすことでプレイヤーの
想像の余地を残すのも、1つの演出だとは思います。

ただ、それを考慮しても、この世界に関するヒントが
ちょっと少なすぎるのではないでしょうか?


以下には、物語で感じた疑問と、
自分の考察を思いつくまま書いてみました。




『角の生えた少年とは、結局何だったのか?』

村のしきたりになっている以上、昔から定期的に
「角の生えた人間」が生まれていたのでしょう。

彼らを収容するカプセルが大量にあったことからもそれが伺えます。

にも関わらず、『では角の生えた人間とは何なのか?』
については、結局触れられないまま終わってしまっています。

我々に与えられるのは、
「角が生えている分、普通の子供よりも丈夫らしい」という
分かったような分からないような情報に限られています。




『少女の姿について』

最初に気絶して見た夢の中では、
少女は「人の形をした黒いもの」でしたが、
実際に出会ってみると普通の色白の人間でした。

城の崩壊のシーンでも、やはり「黒いもの」であったところを見ると、
あれが彼女の本当の姿なのでしょう。

イコにだけは 少女 として見えているようです。

僕は最初、少女が実際の姿を隠している以上、
なにか企みのようなものがあるのでは? と疑っていたのですが、
これはいい意味でハズレてくれたようです。




『城とは何だったのか?』

城の主が少女を「新たな器」として生き長らえようとしていることから、
「城の主は何者?」「少女は一体何?」という疑問もモチロンですが…

そもそも、あの城は何だったのでしょうか?




『城の奥深くにあった剣は?』

イコが持つことで、少女同様に
城内部の機器を作動させられるようになった、あの巨大な剣

あれは何だったのでしょう?

城の主の力を跳ね返すところから、
城の最下層に封印してあった、とも考えられますが、
では、その剣で機器が作動する「城」とは一体?
と、先述の疑問に戻ってしまいます。




『黒い影は?』

敵である黒い影

少女を連れ返そうと攻撃してくる彼らですが、
正体は何なのでしょう?


もちろん、『城の主の意思を実行するための存在』と考えれば一見簡単ですが、
最後のカプセルの大広間では、全てのカプセルから溢れ出した
「角の生えた黒い影」がいっせいに攻撃をしかけてきます。

その外観から、元は同じ「角の生えた人間」だったと考えると、
なぜ、イコに敵対するような振る舞いを見せたのでしょう?

イコも、事故であのカプセルから放り出されなければ、
やがては、ああいう姿になって城の主のために動く生き物になっていた…
という所でしょうか?


ちなみに僕は、先述の
「黒い人型が、主人公には普通の少女として見えている」
という事から逆に考えて、実は敵だと思って切り刻んでいるのは
村人たちなど、普通の人間 だったりしないのか?
と最後までドキドキしながら戦ってました。


つまり、自分の中の『少女を助けたい』というヒロイックな行動への欲求を、
何者かにいいようにあしらわれ手玉に取られている物語なのではないか?と。


これもハズレてくれてホッとしましたが。




『最後に少女と再会するが…』

城の主は、「少女は決して城から出ることはできない」と言ってましたが、
イコと少女は最後に砂浜で再会します。 なぜでしょう?

城自体が崩壊しちゃったから?






以上は、わざと公式ページなどを見ずに、
ゲームとマニュアル内で得た情報だけから考えてみました。

そのほうが作り手に対してフェアな姿勢だろう、と思って。


これについて明確な解答をお持ちの方は、ぜひお教え願いたいです。
書き終わったから、一応自分でも探しに行ってみますが。



ゲームとしては、絶対オススメ!とまでは言わなくても、
この雰囲気はぜひ一度体験をしてもらいたいです。 お試しを〜。






[戻る]