監督「ブラッドフォード=メイ」

『アステロイド』

1997年 アメリカ



■第一章『はじめに』

宇宙空間から地球に小惑星の残骸が降ってくるというストーリーです。

天文学をちょっとかじった事のある人なら、
こういった状況が (規模にもよりますが…)
「それほど珍しくない」ことをご存知かと思います。

巨大な隕石が降り注いだときに、人類はどのような行動を
取れるのか、
という内容は僕自身興味があったので、
結構この映画を見るのは楽しみにしていました。

導入部分のCGによる特撮も悪くなかったので期待したのですが…


それではストーリーを追いつつ批評していきましょう。




■第二章『破片来襲』

…地球に近付きつつあった巨大彗星。
この彗星自体の地球への接触の可能性は無かったのですが、
なんと、たまたまその表面に激突した小惑星の破片が
地球に落下してくる
という事態が発生しました。

迷惑この上無いですね。


…地球に向かっている彗星よりも早く、小惑星の残骸が
地球に到着するのは解せませんが、とにかく大ピンチです。


アメリカの国立天文台が割り出した落下地点は「大西洋」。


…隕石の規模からしても、日本がダメージを食う可能性は皆無のようです。

対岸の火事で済みそうなので、私もホッと胸をなでおろし
『午後の紅茶(ミルク)』で喉(のど)を潤しました。(←悪魔)



…この映画の主人公は、政府の危機管理部門の
最高責任者である、30代ほどの男性です。

現場まで自ら赴(おもむ)いて指揮をとるあたり、
いかにもアメリカ人に支持されそうな人物像です。

いえ、僕もこういう人、好きですけどね。


…で、隕石着水まで後わずかという時になって、
避難区域内で事故に遭って立ち往生している
救助スタッフがいることを聞かされた主人公、
単身で現場に乗り込みます。


「正義感」というよりは、バカ
感情に左右されがちで後先考えないタイプのようですね。

もし、これで命を落としていたら、この後の機関全体の
指揮についてどう責任を取るつもりだったのでしょう。

人間的には好きですけど、上司には持ちたくないタイプです。



…で、現場について救助スタッフを助け、
車で逃げ始めた主人公たちの後方で、
隕石が海面に激突しました。

沿岸の街を襲う大津波。


車を運転していた主人公がバックミラーに目をやると…

後方から建物を飲み込みつつ津波が追いかけて来るではありませんか !!


ギョッとしてアクセルを全開にする主人公。
後ろを見ては怯える救助スタッフ。

でも、なぜか津波が見えるのは
「バックミラーの中だけ」なんですけど。
不思議ですね。

夜中のタクシーの後部座席にあらわれる女の幽霊みたいです。


…必死で逃げる主人公の車に迫る大津波。

その時、後ろに乗っていた救助スタッフが
『そこを右だっ、その先に鉄橋があるっ』と叫びます。


『鉄橋がある』てアンタ、橋があるなら水があるし、
水があるなら津波が来るかもしれないじゃないですか。

ところが主人公、すんなり右折しました。


挙句に「街の中を流れてきた津波」回避できたけど、
鉄橋の中ほどで「海からきた津波」飲まれるという、
危機管理責任者を懲戒免職になっても仕方ないような失態をやらかします。


ましてや、軽トラックのような車で、この事態。
外板も何も無い後部に乗っていた救助スタッフは
間違いなく波に飲まれて絶命したことでしょう。

とか思って見ていたら、主人公の『大丈夫か?』という問いに応えて
『ああ、大丈夫だ』というシッカリした返事。


無事なんかい?


]メンか、貴様?



この映画の監督は、津波というものを
「スコール」か何かと勘違いされてませんか?

…まあ、とにかく助かったから良しとしましょう、めでたしめでたし。




■第三章『小惑星来襲』

…とか安心していたら、今度は彗星の引力の作用
「小惑星そのもの」が地球に落ちてくることが判明しました。

この彗星、なにか地球に恨みでもあるのでしょうか?


…この事態に対してアメリカが出した結論は、
「アメリカ軍の新鋭レーザー兵器を使って、
3方向からの1点照射攻撃を加えて破壊する」

というものでした。

が、結局失敗して、破壊しきれなかった小惑星の残骸部分が
アメリカの都市に直撃することになってしまいました。


この映画を見ていると、この地球上には
「アメリカ」と「海」しか無いことが良く分かりますね。

勉強になったよ。



…で、ものすごい勢いで落下してきた巨大隕石がビル街に直撃しました。

この映画最大の見せ場だー!!

と、私が拳を握って画面に食い入ったのも束の間、
ぼわん と頼りない爆発がビル街に半透明でかぶさっただけで、
そのシーンは終わってしまいました。






あのー監督、『仮面ライダークウガの必殺キック』のほうが
数倍破壊力が上のように見えるんですけど、
隕石の実力ってこんなものですか?


隕石、恐るるに足らずですね。

地球万歳


やけくそ



…この後、30分以上もの時間が、
隕石の被害を受けた街での救助活動とか、主人公の活躍とか、
ヤケをおこした民衆に副官が撃ち殺されたりとか、
主人公と未亡人に芽生えるとか
どうでもいい事柄に費やされます。



…結局、アレですか。

監督は『隕石落下の脅威』ではなく、
『題材を目新しい「隕石」に置き換えた災害物』
撮りたかっただけだと。

つたないながらも天文学と物理学の知識をもって
期待に胸ふくらませた私がバカだったと。


…ラストシーンで、朝焼けの空に姿を見せた巨大な彗星を見ながら
『生きてるうちは2度と拝みたくないわね。』とつぶやく人々。


『俺も2度と拝みたくねぇよ、こんな映画。』



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