監督「ピーター=ハイアムズ」
『カプリコン1』
1977年 アメリカ
■第1章『ストーリー』
…人類初の有人火星探査機『カプリコン1』の搭乗員の物語です。
と言っても、舞台は火星ではなく地球。
技術的欠陥で人間を乗せることができないにも関わらず、探査機『カプリコン1』の
打ち上げは、政治的・経済的理由からどうしても中止できない。
そこでNASAは、無人の『カプリコン1』を大気圏外に打ち上げておき、
乗組員たちを地上に秘密裏に作られた「火星表面に模したセット」
で演技させ、その映像をТVに流すことにした。
国民をあざむき、宇宙開発の予算を捻出するための苦肉の策なのだ。
国家という巨大な権力の前に、否応無しに従うしかない乗組員たち。
初の火星探索員という名誉ある立場から一転、
予算のために国民をだます苦悩の4ヶ月を強いられる。
…そして、大気圏外を周回していた『カプリコン1』が
地上に帰ってくる日がやってきた。
大気圏に突入する、無人の探査機。
ところが、突入直後に探査機からの通信が途絶えてしまう。
突入の際に、シールドの不備が原因で熱に耐えられず、
探査機が燃え尽きてしまったのだ。
この瞬間から『カプリコン1』の乗組員は、
「生きているはずの無い、生きていられては困る人間」として
国家から命をねらわれることになる。
NASAの「火星表面のセット」を飛行機で強行脱出した乗組員3人は、
途中で不時着した広大な荒地を基点に、それぞれの目指す方角だけを頼りとして、
あての無い逃亡の旅を開始するのだった。
■第二章『感想』
…正直、こんなに辛い話だとは思ってませんでした。
火星に行く技術が無いアメ帝が体裁を繕うために、
見るからに眉ツバな安っぽいセットを組んで国民にバレないように
四苦八苦するB級ドタバタギャグ映画だと予想していたもので。
…何しろ、秘密に感づき始めたNASA内部の作業員を人知れず抹殺した上に、
それに関する情報もキッチリ抹消しているあたり、非常に現実味があります。
ハデさは無いですが、ジワジワと忍びよる目に見えない恐怖がこの映画にはあります。
…荒野に不時着した3人は、それぞれ別々の方角に助けを求めて逃げ続けるのですが、
ジワリジワリとNASAによって追い詰められていきます。
崖をよじ登り、水を求めてあえぎ、渇きを癒すために
殺したヘビの血をすすってまでも逃げつづける3人。
しかし、1人、また1人とも仲間がNASAに捕らえられていきます。
その度に、「捕まったら打ち上げる」ように仲間と約束した
照明弾が空に向かって打ち上げられます。
小さく乾いた悲鳴をあげながら力なく空に上がる照明弾の光は、
捕まった乗組員の断末魔のようで哀れです。
画面上では捕まった後の描写は無いですが、
その場で口封じされたと考えるのが妥当でしょう。
他の乗組員が、彼方に上がった照明弾の光をしばらく見つめた後、
無言で歩き始める姿が痛々しいです。
…しかし後半、人知れず抹殺されたNASA作業員の
友人の新聞記者が、ことの真相に気付きはじめます。
作業員の証言、『火星から発信されているはずの電波が、なぜかNASA基地の
300マイル以内から発信されている計測結果が出た』という言葉と、
ТV画面で見た「乗組員とその婦人の不可解なやりとり」の2つから、
ただ1人生き延びて逃亡中だった乗組員の居場所を探しあて、
幾多の困難の後、みごと保護に成功するのです。
…物語のラストで、大気圏で燃え尽きたことになっている『カプリコン1』の搭乗員の
お葬式が、ТV局のカメラと搭乗員の家族が見守る中でとりおこなわれます。
「彼らの死は決して無駄ではなく、次に進むための確かな礎である」などと、
自分達で殺しておきながら白々しいことを言っているNASA関係者たち。
その墓場のそばの道に静かに停まる乗用車。
車から降りて、墓場に向かってゆっくりと手を振りながら駆けてくる男。
その男の姿に、ハッと顔を上げる家族。 ざわめく参列者たち。
愕然としつつも慌ててТVカメラを向けるテレビ局員。
そして、呆然と立ち尽くすNASA関係者。
『カプリコン1』の搭乗員中ただ1人の生き残りである男が
自分のお葬式の真っ只中に駆けてくるシーンをラストに、
この物語は幕を閉じるのです。
…それにしても、国家的レベルで情報工作が行われている姿を描いたこの映画ですが、
学生のころに見ていたら、きっと大きなショックを受けていたと思います。
「こんな恐ろしいことが本当にあるんだろうか!?」とか言って。
でも、こうして大人と呼ばれる年齢になってみると、
「こういう事もあるよねぇ」とか思えてしまうあたり、
私もイヤな大人になったという事でしょうか?
…いや、でも、だって。
こういう事って、ありますよねぇ、皆さん?
…総評としては、最後の救出劇がちょっとご都合すぎるような気もしますが、
乗組員たちの等身大の苦悩と悲哀が胸にくる、丁寧な作品だったと思います。
ちょっと暗くて辛い話ですけど、こういうのも好きです。
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