監督「原恵一」

クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦


2002年 日本        執筆日:2003年 4月10日





■第一章 『概要』


『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』は、
人気長寿ギャグアニメ『クレヨンしんちゃん』の劇場版の1つです。


主人公である幼稚園児しんちゃんが、
戦国時代の埼玉県春日部にタイムスリップ。

歴史書にもほとんど残っていない小大名「春日」の下、侍頭を務め、
領民の信望も厚い『又兵衛』をたまたま助けた「しんちゃん」は、
しばらくの間、又兵衛の家で生活することになるが…

というお話です。



『戦国時代』という、命のやりとりが日常となっている世界で、
ギャグ漫画の主人公に何ができるというのでしょう?

見る前から少々不安になってしまいますが、はたして?






■第二章 『ストーリー』


…ストーリーなどはネタばれになるので割愛しておいて、
いきなり当作品における「しんちゃん」の役割についての
結論に入ってしまいましょう。



無力な一幼稚園児「しんちゃん」が為した役割。

それは『キッカケ作り』だと思うのです。




又兵衛たちの恋が一歩前進したのも、
春日城主が大蔵井との政略結婚を拒否したのも、
「しんちゃん」と出会って21世紀の価値観にふれたことが、
その行動を決意した理由の1つになっています。

しんちゃんの家族が総出で戦国時代に向かったのは、
言うまでも無く「しんちゃん救出」のためだし、
父ちゃんが戦場の真っ只中へ自動車で引き返したのも
「しんちゃんの一言」が彼の背中を押したからだと思うのです。




「しんちゃん」自体は幼稚園児なので無力ですが、
その言動が周りの大人たちを動かすため、
物語の要所に関わることができる。

『社会的・肉体的能力のほとんど無い主人公を使った物語作り』
お手本のようなストーリーとなっている点に感心させられました。






■第三章 『色々』


…ただ、まるで2つのアニメをコラージュしたような、
『しんちゃん一家』と『戦国時代の人々』外見の違和感は、
最後まで気になりました。


また、作りとしては、『小さなエピソードを重ねていく』ことで
登場人物それぞれの人となりが少しずつ垣間見えてくるという
実に丁寧な物語なのですが、そのせいで見た目が地味になってしまっており、
親子(多分、しんちゃんシリーズのメインユーザー)でこの映画を見に来たときに、
大人はともかく子供は楽しめたのだろうか?
と、ちょっと心配になります。

(個人的には好きなんですけどね。 こういう、ハデな演出に頼らない実直な作品は。)





…物語としては結局、「しんちゃん」が過去に来たからといって、
歴史の流れはほとんど変わりませんでした。

ただ、それは『歴史的結果が変わらなかった』という意味であって、
しんちゃんの登場によって、彼に関わった人々の
『結果にいたる過程』には小さな変化が起こっています。

しんちゃんが過去に訪れなかった本来の歴史と比べて、
ほんの少し『自分の気持ちに正直に生きる』という変化が。




なぜ「しんちゃん一家」が過去に呼ばれたか?
についても、一応理由付けがされているし、
(ご都合主義ではありますが、彼らには「しんちゃん」のような存在が必要だったのでしょう)
なんと言うか、後からしみてくる話ですね。




皆さんも、一度お試しを。

『しんちゃん』ファンでなくても楽しめると思いますよ。 




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