監督 多数


『日本のこわい夜』


2004年 日本           執筆日:2004年 9月25日





■第一章 『TBSの底力』


『日本のこわい夜』は、2004年の9月22日にTBSが
「水曜プレミア」の中で放送した、怪談ドラマ短編集です。

当日に新聞で見つけて、
プロ野球の放送終了後すぐ、というのも手伝って、
テレビ嫌いの僕にしては珍しく視聴してみました。


なにせコピーが
『テレビで放映できる限界の恐怖!』
という力強いものですから、
ここはTBSの底力を見せてもらいましょう。



番組は10〜30分程度の短編5編と、
その間の小話的怪談によって構成されています。

今回は、この5編を個別に批評してみる事にしましょう。







■第二章 『5編』


『クモ女』


放送時間が最も長い、いわば当番組の中心的お話です。

クモのように手足が8本ある女が出没して人々を脅かしており、
それを取材した記者がたまたま「本物」に遭遇してしまい、
結局自分もクモ人間にされてしまいました
、という話。

定番中の定番だが、犠牲になる記者の周りの壁や床が
少しずつベタベタしてきてジワジワと動きを封じられる過程は
「クモ女」の面目躍如でちょと面白かった。

最後の、クモ女の茶色い顔のアップも、ちょと怖かったし。



あと、クモ女(母と娘)の、
どこかネジのはずれた異常な振る舞いはブキミだった…

…が、不景気の影響もあって多くの人間がどこかしら
正常と異常の合間を行き来している現在においては、
恐怖よりも不愉快さが際立ってしまう。

こういう人間は、たとえば山手線などに乗れば、
全車両中で4〜5人必ず目にするので、
珍しくも無い上に、気晴らしで見たドラマの中で
現実の不愉快さを思い出させられた気分。

もっとも、そういう人間が混じっている事を普通に感じてしまう
「今の社会」こそが、真の恐怖なのかも知れん、
…て後半「番組の批評」になって無いなゴメン





『すきま』


アパートから忽然と姿を消した友人の謎を追う、青年の話。

友人の部屋は、すきまというすきまを
赤いガムテープでメチャクチャに目張りしてあり、
普通の茶色いガムテープよりも『異常さ』を効果的に表現している。


が、つまるところ、
『部屋のどこかのすきまから女の手が伸びてきて、
どこかに引きずりこまれてしまう』
という話。

どこにでもある、しかしその内側が分かりにくい
『すきま』というものが持つ「想像すると薄ら怖い」感覚を、
そのまま死に直結させただけで終わっていて残念。


僕が以前読んだ「すきまに関する怪談」で、
『タンスと壁の隙間から、厚さ3センチほどの女性が
ジッとこちらを見ていた』
というオチの話があり、
そこだけ見てもこのドラマは「意外性」で完全に負けている。

もう一声のヒネリが欲しかった。





『大生首』


ストーカー的異常性を持つ上司に付きまとわれるOLの話。
怪談というよりは「呪い話」か?

上司の呪い(しかも独学)がシッカリ主人公に利いていたり、
上司が呪い返しで死んでしまうオチなど、ただでさえウソ臭いところに
「安っぽさ」まで加味されてしまっている。


特筆すべきは、主人公のOL(山田 優)のダメすぎる演技力で、
他の出演者の中から完全に浮いてしまっていて痛々しい。

オチにしても、
『タイトルにもなっている、あの大生首は結局なんなの?』
と首をひねるばかり。





『金髪怪談』


話としては、5編中で一番突拍子が無い。 が…

『遊び気分(下半身ふくむ)で海外出張に出かけた、
だらしないけど、どこか愛嬌のあるサラリーマンという
親近感を持てる主人公が、いきなり恐怖空間に叩き込まれる落差』

『短い放送時間と、メリハリのあるカメラワーク』
『情けなさをうまく表現している男優』
(杉本哲太さん)
などに支えられて、結構「見れる」ものに仕上がっている。


5編中で、不思議と記憶に残る作品。





『予感』


『人は、その死期が迫ると、死者の霊を見やすくなる』
という使い古された題材に、ちょとだけヒネリを加えた話。

3人の霊とともに、
エレベータの中に主人公が閉じ込められる形になるが、
その霊が「気の良さそうな老夫婦」と「寂しそうな若い女性」で、
しかも血色良さそうな顔しているので全然怖くない。
(せめて下から青いライトアップしてやれよ)

「当然、エレベータの事故で死ぬのだ」と視聴者に思わせておいて、
主人公がエレベータから助け出され、安心させておいて
『別の原因で殺す』というのもありがち。


唯一の工夫点である
『主人公の死の現場を見にきた3人の霊』の行動理由も、
『死を知るから、生を実感できる』というありふれたものだし、
そもそもアンタら死んでるやん。

メチャクチャな話だと思った。


この話の中で、さりげなく(つか露骨に)
近々封切りになる映画『感染』の宣伝ぽいセリフもしゃべらせてるし、
テレビドラマ制作者て可哀想だな、と思いました。







■第三章 『総評』


「総評」というほどのものは残っていない。
第二章での評価で全てです。


ただ、俳優の演技力について、
『年配の方は総合的に演技力があり』
『若手は演技力はヘボいが、泣き叫んだり
キチガイじみた演技(というか「地」か?)はうまい』

という所は、ここ10年ほどの特徴だなーと思いました。



わざわざ夜中の2時に見たのに、ほとんど怖くなかった。 残念。

まぁ、これが今のテレビドラマの実力か





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