監督「手塚眞」


ブラック・ジャック スペシャル
『〜命をめぐる4つの奇跡〜』


2003年 日本           執筆日:2004年 2月20日





■第一章 『はじめに』


『ブラック・ジャック スペシャル 〜命をめぐる4つの奇跡〜』は、
2003年の12月に、日本テレビで放映されたテレビスペシャルです。


個人的に好きな漫画なので、結構楽しみにしてたんですが…

正直、アニメ部分の出来は悪く、演出などの安っぽさからも
同局が2000年前後に放映していた『週間ストーリーランド』
臭いがプンプンしてイヤな気分にもなりました。


それでも、いくつか『見るべき場所』があったので、
とりあえず、1話1話を順に批評してみようと思います。






■第二章 『各話の評価』



『プロローグ』

いきなり、原作では直接は描かれなかった、
『不発弾による、黒男と母の事故シーン』が見れて、
得した気分になりました。


ただ、明るい青空の下で明るい爆煙が上がっても、
少しも悲惨さが伝わりません。

ここはズバリ『赤と黒』による画面作りを。





『第1話 医者はどこだ!』

コミックス第1巻第1話でありながら、
全話的に見て地味すぎるという理由からか
今までアニメ化されていなかった『幻(笑い)の1話』が、
テレビ画面に初登場です。

『この当時からすでに、ピノコがBJ(ブラックジャック)と一緒にいる』
というのは驚愕アンド新鮮ですが、
やはり「ピノコ」がいると画面が和みますね。

「一般視聴者向け」の番組ですから、
製作者のこのアレンジは正解だと思います。



ただ、デビーの持っていた「布生地」が
アクドの事故の原因になってしまっているせいで、
原作にあった『ニクラ家の不条理なゴリ押し』
印象が弱まってしまっているのは残念。


また、最後に
『デビーの顔をさらに別人に整形する』という納得のいくアレンジ
(原作どおり、あの顔のままで逃げたら、多分すぐ見つかってしまうだろうし)
があったのは感心しましたが、それを
『逃亡の「前」に済まそう』
とするのは、ちょっと…


順番、逆だろ?





『第2話 勘当息子』

これまた地味な選出!

ただ、制作サイドは、この1・2話で
『BJという男の人柄』を描こうとしているようですし、
視聴者が見たがってる『お涙頂戴話し』としては、
ここらへんが適当なのかもしれませんね。(←いいすぎ)


出来はまあまあ。





『第3話 U−18は知っていた』

さあ、いよいよ『ブラックジャックらしい話』の登場です。


AIが管理するフルオートメーションの医療システムが、突如暴走。
900人の患者を人質にとって、自分の故障(病気)をBJに依頼する

という、『鉄腕アトム』みたいな話です。


原作では、「U−18」が自分のシステムの欠陥を理解し
『自ら引退を表明する』という、彼の誠実さを愛せずにはいられない…
同時に、現実の一部の医者の「薄汚い保身」
浮き彫りになるような話でした。

ラストの、BJの
『U−18。 お前さんも立派な医者だったぜ。』
というセリフが、しみます。



アニメ版では、
『「ワットマン博士」の娘の死が、U−18製作の理由だった』
という要素を加えて、最後に「U−18」を廃棄せず、
『「娘」同様、大切に育てなおす』という変更が加えられてます。


たしかに「救い」は増しましたが、
『U−18の誠実さ』がボヤけてしまったのは残念。





『第4話 ときには真珠のように』

僕が20年ほど前に初めて手にした「ブラックジャック」の
単行本は『3巻』だったが、その中に収録されている話。

大人になってから読み直して、サラリと描かれた話だが
実はモノ凄い内容を扱っていることに気付いて、愕然としたものだ。



この話は、BJの命の恩人であり羨望の的であった『本間先生』が、
『己の保身のために、7年間もBJを命の危険にさらし続けていた』
ことが発覚するという恐ろしい内容。

尊敬し続けてきた相手に裏切られ、
悪い意味で『医者も所詮は人間』
という事実を叩き付けられるBJ。

「カルシウムのさや」の偉大さに医者の存在理由すら霞み、
挙句に、BJの必死の治療にわずかも応えず、
恩師「本間丈太郎」は静かに事切れる。

BJの積み上げてきたものを根底から崩し尽くす残酷な話だ。



恩師が最期に身をもって残していった「教え」としては、
真実であったとしてもあまりにも寂しい。



アニメ版では、なぜかこの話は『回想』として描かれている。
理由は「エピローグ」で分かる。



残念なのは、
『世間体と、医者としての責任の間で揺れる、
本間先生の苦悩の7年』
が、
ちゃんと描かれていなかったこと。



あと、細かい事だけど、ラスト付近のBJのセリフ『死んだのか』は、
『本当に死んだのか?』という、いまだに信じられない気持ちを
盛り込んだほうが、彼の憐れさが際立ってイイと思うんだけど…





『エピローグ』

原作には無い話。

第4話で登場した「カルシウムのさや」を持って海辺の崖にたたずむBJが、
『しかし… 私は医者だ。』と言い放って「さや」を投げ捨てる。

『恩師の死からズッと考え続けていた』という
時間的要素が必要だったので、
4話が「回想」になってたわけですね。



「恩師」を失い、
『もう1つの、自分の命の恩人』であり
『身体の神秘の結晶』
である
「カルシウムのさや」とも決別するシーン。



BJの『再出発の決意』を描いた場面だが、
このシーンが、流れ上偶然できたものではなく、
意図的に構成されたものだとしたら、ある意味、
『原作を超えた名場面』ではないだろうか?


原作では、最後まで過去を引きずり
未完となった「間 黒男」の生き様。

それを否定するこのシーンは、
『手塚治虫』本人には描けないものだったのかも知れない。






■第三章 『まとめ』


「効果音」と「使い古されたアングル」に頼った安っぽい演出に目をつぶり、
「一般視聴者も意識した2時間スペシャル」という点も考慮すれば、
十分及第点の出来ではないだろうか? (ラストは個人的に絶賛)



あえて改良案を出すなら、プロローグの後半に
『ときには真珠のように』の導入部分を伏線として出しておき、
最後(第4話)で本編に入るようにすれば、
『長い時間考えつづけたBJ』をさらに演出できるのでは?



あと、『医者の存在理由と、生命の意味』を掘り込む意味で、第4話の前に
『ちぢむ!』(アフリカに蔓延する、原因不明の身体萎縮病の話)が、ぜひ欲しい。

軽〜く楽しもうと思っている視聴者はド肝を抜かれるだろうが。
(それ以前に、話の意味が分からんかな?)




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