監督: レス・メイフィールド


『フラバー』


1997年 アメリカ         執筆日:2005年 8月29日




【最初にお詫び】

この批評は、筆者が以前にこの作品を見た当時(2004年9月ごろ)の
批評用メモを元に内容を思い出しつつ書いたものです。
そのため部分的に勘違いした批評が混じるかもしれません。
もし、そういった点にお気づきの方がいらっしゃいましたら、ご指摘いただけると幸いです。

夜露死苦〜





■第一章 『永久機関文明』


『フラバー』は、ほのぼのファンタジーです。

小さな研究所に住むさえない大学教授『フィリップ』は、偶然にも、
慣性を無視して無限に弾性エネルギーを増やして行く
脅威の物質『フラバー』
を発見。 果たして、どんな騒動が!?

というのが、ストーリーの柱です。



正直、番組の予告欄を見て、
こんなに『見たいっ!』と思った作品も珍しいです。



僕は物理学が大好きなのですが、
『無限に増える弾性エネルギー』とは、
なんと思い切った設定でしょう!


高校生以上の方なら、「エネルギー保存」という言葉を
聞いた事があると思いますが、アレが通用しなくなるのです。

エネルギーは、形が変わっても総量は変わらない
という常識が破壊されるのですから、
いくらでも壮大な話に発展できそうではないですか!



例えば、自動車のエンジンにガソリンを入れる必要はなくなります。
最初にちょっとだけフラバーを縮めれば、後はボヨンボヨンと
はねる「フラバー」がエンジンを回します。

ロケットを地球外に打ち出すための巨大燃料も必要なし。
第2宇宙速度に達するまで、地面の上でビョーンビョーンとはねさせておいて、
地球の引力圏を脱したあとの「姿勢制御用の燃料」だけでOK。
本体の大幅な軽量化が可能で、NASAが泣いて喜ぶことでしょう。
(乗組員はたまったものではありませんが…)



さらには劇中では、車体の底に薄くフラバーを塗ることで
反重力 による浮遊まで実現する始末。


「歯車」によって効率の良いエネルギー利用を歩みだした地球文明は、
『フラバー』による『宇宙レベルの永久機関文明』
至ろうとしているのです!


大期待で視聴いたしました。






■第二章『駄作』


…で、本編を見た私は、椅子から転げ落ちました。


駄作!



全体的にはそこそこキレイにまとまっていますが、
どこまでいっても発想が「庶民レベル」で、
『フラバー』という題材を使っている理由がさっぱり見えないのです。

以下で、大雑把にストーリーを追ってみましょう。




まず、主人公は研究に没頭しすぎて彼女とのデートをすっぽかし気味
だったところに来て、「フラバー」の開発に熱中するあまり、
自分と彼女の結婚式を忘れたまま一夜を明かす
という前代未聞の大ポカをしでかします。

当然、彼女からは完全に愛想を尽かされますが、
主人公は『フラバー』による名誉挽回をはかります。


…企業に「フラバー」の特許を売り込んで
一攫千金を狙ったとか?



いえいえ、とんでもない。





自分のバスケットシューズの裏にフラバーを塗って
10メートル以上離れた場所からのダンクを決めたり、
彼女の2階の窓に飛びついておどけたりしたのです。





阿呆です。


案の定、彼女からは『もう来るな』と、断絶宣言。



フラバーの能力で「反重力カー」となった自車を駆って、
月夜のドライブとしゃれこみますが、
助手席に座っているのがお手伝いロボット『ウィーボ』なあたり、
人生の力の入れ所の配分のまちがいっぷり
見ててイライラさせられます。

(この『月夜のドライブ』の幻想的な浮遊感は本当に心地良いんですけどね。
ウィーボもいい子だし。 あと、たしかこのシーンで、空を行く自動車を
唖然と眺める少年がすごくイイ味を出していて良かったなー)





挙句に、なぜか「思考力」を持つようになってしまったフラバーが、
研究室内で勝手に仲間を増やして大騒ぎ。

総勢100体を超えるフラバーによるダンスパーティで
研究室はディスコ状態。



物理の「ぶ」の字も感じさせない
勢いまかせのご近所ファンタジーに、私の頭は真っ白。



クライマックスは、主人公のライバルである「金持ちで性格の悪い男」から
愛する彼女を救うために、フラバーを使用。

殴られ蹴られた上にフラバーを飲み込まされた息子は、
青い顔をしながら千鳥足でフラついた後、
尻からフラバーを噴出して気絶するという、
頭痛すらもよおす下ネタでフィニッシュ!



主人公の男っぷり (では無いと思うんだが…) に惚れなおした彼女と
改めて結婚式にのぞむというご都合展開でハッピーエンド。


映画は幕を下ろします。 






■第三章 『小市民』


発想自体はとても良かったと思うんです、この作品。


でも、発明したのが『うだつの上がらない発明家の青年』だったせいで、
その使用方法も『彼女との恋愛に成功したい』
『金も力もある相手に一矢報いたい』といった、
それぐらい自力で何とかしろと言いたくなる悲しい使い道ばかり。


それが、この映画を見ていてイライラする理由だったと思います。




例えば、『材料としてのフラバーに関して、その使い道について
トコトン掘り下げたサイエンスフィクション』
だったら、
また違った切り口の映画になったのではないでしょうか?




…というか、もう飽き飽きですわ。

『どこにでもいる人間が、手に入れた能力のおかげで
ライバル倒して彼女とハッピーエンド』
という、
さもしいパターンの映画。


そんな物語にいつまでも共感できるほど
ユーザーは低能ではないと思うのですが…

そうか、そういう低能な人間相手の商売だけがメインなら、
こんな内容ばかりでも十分なのか… あはははははは。




…なめんなコラ。




最後に疑問を。

『ウィーボ』ほどの人工知能(かつ反重力浮遊システム)
搭載したメカを作れる人間
が、なぜこんな町の片隅で貧乏生活を?






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