監督「エドガー = G = ウルマー」

『未来からの脱出』

1959年 アメリカ



★序章『時の旅人』★

「荒廃した未来世界に紛れ込んでしまった男が、現代に戻り、その危険性を訴える」
という物語に引かれて見てみました。
モノクロの画面に「癒し」を感じてしまうあたり、寄る年波を感じます。

物語は、ロケット発着所から、主人公である青年が飛び立つところから始まります。
今まで人類が到達したことの無かった超スピードの世界での有人実験が目的です。
搭乗までのシーンは全編からみれば短いものですが、
セリフの端々にドラマを感じさせ、緊張感があります。

ロケット発射。

大気中では「ジェットエンジン」による加速、衛星軌道上では「ロケットエンジン」によって
推進力を得るという機体設定は、スペースシャトルの構造にも通じるところがあり、
こういった部分の説明を入れてくれる制作サイドの姿勢に、
この作品に対する私の期待はますます膨らんでいったのでした。

さて、主人公は問題無く衛星軌道上まで飛行するのですが、
何ということでしょう。
 その超スピードがために、主人公の乗ったロケットは
70年の時を経た「未来世界」に転送されてしまいました。
そして、そこには、 主人公(と筆者)を恐怖のドン底に
落とし入れる世界が待ち受けていたのです。




★第一章『何だ、ここは ?』★

…荒れ果てた70年後の世界に紛れ込んでしまった主人公。
時間を飛び越えたことに気付かないまま、主人公は地上に戻り、
人っ子一人いない地上と、荒れ果てたロケット発射基地を見て愕然とします。

でもテレビ画面で見てると「ぜんぜん荒れ果ててない」ので、
主人公は何をとまどっているのだろうと見てて不思議に感じました。

主人公は仲間を探して、近くの荒れた建物に入り、崩れた壁や机の中で呆然とするのです。
 でも、この建物どう見ても荒れ果てた 「民家」 です。 基地の施設とは思えません。
 制作側は、これを 「基地」 だと思ってほしいのでしょうが、
見てる側としては、カメラがうっかり近くにいる「牛」でも
映してしまったらどうしようと 気が気ではありません。

とりあえず建物から出た主人公が、遠くに何かを発見したように背伸びをしています。
でも見てる側からは、ちょうど建物の影になってソレが見えません。

…とか思っていたら、画面に変な「絵」が映し出されました。
何か「三角錐のタワーのてっぺんが輝いている」絵です。

主人公が枯れ林を進みます。 そして、彼が背伸びをするたびに
「絵」が画面いっぱいに映し出されるのです。
どうやらこの「絵」が『主人公が見ている景色』らしいです。

遠くを映さないように努力するカメラと、ありもしないタワーを
目指して歩む主人公の演技が 泣かせます。
そんな主人公を監視カメラで見つめる怪しい人々。
主人公は彼らに拉致され、タワーの中に連れ込まれてしまうのでした。



★第二章『未来世界』★

…主人公は未来の人々に捕まってしまいました。
彼らのほとんどは「聴覚」を持たないため、言語を理解できません。
しかし代わりに「心を読む」ことが出来るそうです。

そして、主人公の正直な心に好意を抱いた「未来の統率者の娘」と、
主人公の間に「愛」が芽生えます。 羨ましい限りです。
私など、 一発で嫌われる自信があります。

いや、意外と私が考えているようなことを喜んでくれる娘かも知れません。
「三角木馬大好き少女」である可能性を 誰が否定できましょう ?

未来もまんざらではありませんね。

ビバ未来。

話を戻しますが、娘は主人公にタワーの中を案内してくれました。
建物の中の柱は「ピラミッドを上下ひっくり返したような姿」です。
なぜ未来人は、こんな場所を取る設計をするのでしょう ?

ほら、後ろを歩いていく役者さ… 未来人さんがピラミッドに頭ぶつけそうですよとか、
気になってしようがありません。

あと、主人公達が移動する廊下やエレベータが、
いつも同じカメラ視点からしか撮影されていません。
そのバリエーションの少なさたるや「80年代前半のアドベンチャーゲーム」並で、
セットにお金がかけられなかったのねとか考えつつ見てると 涙が出そうです。



★第三章『栄光への脱出』★

…この荒廃した世界の原因は、20世紀後半に起きた「大異変」によるものでした。
『核戦争か ?』と問う主人公に、未来人は「環境破壊」によるものであった事を告げます。

つまり、当時さかんに行われた核実験によって「宇宙から放射線が降り注いだ」
言うのです。 『オゾン破壊』『バン・アレン帯の消失』という意味でしょうか。
結構、社会派ドラマです。 主人公は、この悲惨な未来世界が現実のものとならないよう
世界に訴えるために、危険を冒して過去に戻ろうとします。

しかし、現状のまま静かに暮らしていくことを良しとする『保守派』によって
行く手を阻まれてしまいます。 やむなく、牢屋から囚人を解き放って暴動を起こし、
その機に乗じて脱出することにしました。

そのシーンですが、牢屋の中は「地下の広い洞窟」といった感じで、
囚人たちはボサボサ長髪にボロ布をまとい、「フリーマン」ぽくて感じ出ています。
 主人公が牢屋の出口を開けると、数十人の囚人が我れ先にと地上へ押し寄せてきました。

迫力のシーンです。

…ところが、出てきたのは『仮面ライダークウガに出てくる、
「チーマーぽい面した敵」が頭を丸めたような人々。(5、6人)』
でした。

…変身したのでしょうか ?

 …どうも直前の迫力シーンは、別の映画か何かの映像らしいです。

腰砕けです。

でも、とりあえず未来都市は大混乱。

逆ピラミッドの柱が並ぶ狭い部屋の中で、大勢(5、6人)の未来人が
大乱闘(押し合い)する緊迫の(和やかな)場面の中、主人公と娘は
過去に旅立つべくタワーの外のロケットを目指して走ります。

…と、娘が力なく倒れました。

敵の銃で撃たれたそうですが、 栄養失調で倒れたのか と思ったほどの
脱力演技です。 主人公の腕の中で微笑み、静かに息を引きとる娘。

でも全然緊迫感ありません。
 この娘が終始「安らかな笑顔」だったせいもあると思うのですが、
何も知らない人が途中から見て
『この緊急時に急に昼寝など始めおって非常識な』
勘違いされるのではと心配になるほどです。

まあ、この娘を過去に連れて行くとストーリーが面倒になるので、
「すっぱり殺してゴーホーム」
という制作者の意図は 分からなくもありません。



★第四章『浦島太郎』★

…衰弱しながらも過去に戻った主人公は、宇宙センターの病院に収容されます。

主人公の同期が病室に訪れ、彼のベッドに近付こうとしますが、
同時に側にいた看護婦が恐怖の悲鳴をあげます。
そこに寝ている主人公の姿が、ヨボヨボの年寄りに豹変していたのです。
(このシーンは音楽のタイミングもバッチリで、結構ギョっとさせられました。)

同期の友人の計らいで、政治家が主人公のもとを訪れます。
その異様な事実に、政治家が「ことは一刻を争う…」と改善を決意したところで、
この物語は幕を閉じました。 でも主人公、何で年取っちゃったんでしょう ?
 


…全体的に振り返って見ると、「現代部分」と「未来部分」で驚くほど
クオリティが違います。
 特撮のヘニョヘニョぶりなどが気になり、
物語に集中できません。
別の映画か何かの映像も混ざっているようで、どうにも統一感に欠けます。
「現代部分」だけなら結構いいと思うんだけどなー。



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