監督: スティーヴ・ベック


『ゴーストシップ』


2002年 アメリカ

執筆日: 2008年 12月09日





■第1章 『謎の豪華客船』


『ゴーストシップ』ホラーです。


しょっぱなから、
豪華客船のデッキでダンスに興じる100名近い船客たちが、
万国旗を支えていたと思しき直径5ミリほどのケーブルが
一気に巻き取られる事故(故意?)によって、少女1人を残して、
立ったまま一瞬で上半身と下半身が真っ二つになって死亡…

という大殺戮シーンで幕開けです。

アクセル全開ですね。


どんだけ鋭利なケーブルだよ、斬鉄剣(by五右衛門)かよ
とか、いきなり内容に不安のよぎる向きもございましょうが、
まぁここは、背が低かったおかげで一命をとりとめた少女の幸運に
暖かい拍手を送るのが正しい映画の見方と言えましょう。



さて、物語はここから本編。

沈没船のサルベージで稼いでいる(と思われる)ヒロインたち6人のチームは、
飛行機乗りである青年フェリマンから、
上空から撮影した謎の巨大船の調査を依頼されます。

通常の航路から外れた海域をただよう巨大船。

その謎を求めて雨の中を航海する主人公たちが見たものは、
レーダーからなぜか時おり消えつつも唐突に眼前に現れた、
豪華客船『アントニア・グラーザ号』の姿でした。

40年前に忽然と姿を消した豪華客船の内部を探索し、
ついに金塊に辿りつく主人公たち。


ところが、帰ろうとした途端に、
ガス漏れによる引火事故で、乗ってきた船が大破沈没
クルーの一人が死亡してしまいます。



ヒロインだけに見える、少女の幽霊。

船内プールに残る無数の弾痕。

40年前に沈没し行方不明だった船にも関わらず、所々にふと見受けられる
「たった今、そこで誰かが使用した痕跡を残す品物」…




40年前、この船に何が起こったのか?

実はこの船に、主人公たち以外の人間が隠れて存在しているのか?

そして、エンジンも完全に機能を停止したこの豪華客船から、
陸地へ生還する事は可能なのか?


主人公たちのサバイバルが始まりました。







■第2章 『ジェットコースター』


…と、前半まではまあまあホラーとして「観れる」内容だったのですが、
後半に入ると怒涛のジェットコースター映画に早変わり。

今までは品物などに見られる不整合さからの違和感
としてしかその気配を見せなかった幽霊たちが、
ババーンと主人公たちの目の前に現れるようになるのです。

しかも生前の姿で。


船長がウイスキーを勧めてきたり、歌姫が踊りを誘ってきたりと、
一気に 華やか&ウソくせ〜 雰囲気が画面にあふれます。



歌姫の誘惑に負けて抱きつこうとしたクルーは、
エレベータ(?)の通路をまっさかさまに転落して惨殺され…

空腹から、40年前の缶詰を意を決して食べたクルーたちは、
意外なおいしさに大喜び… したのも束の間、
よく見たらウジがてんこ盛りになっていて
オゲ〜〜〜!!とビックリしたり(ビックリでは済まんだろ)

怖いというより
なんてイヤなやつなんだろう幽霊って!
と思わせるシーンの連続で失笑です。



というか、主人公たちの船がガス爆発を起こす直前も、
その危険を察知して「ダメ!危なーい!」などと
必死で甲板を駆けてきた少女の幽霊がコケてしまうなど、
幽霊の風上にも置けないドジっ子ぶりを披露する様は
何か米国の新しい萌え戦略でしょうか?

(後日、mixiを通じて、この少女がフェリマンに足つかまれてコケたという情報をいただきました。
たしかに、コケる直前に誰かが飛び込んだことは気づいていたのですが、フェリマンだったですね。
それを考慮しても「コケる幽霊」というのはちょっと 萌え 苦笑ですが…)





一方ヒロインは、600人からの乗船名簿から少女の幽霊本名を見つけ出して(無理だろ普通)
彼女と船内で再会し、少女の母親と雰囲気が似ていたからか、
40年前の事件の真相を少女から教えてもらうことに成功します。

主人公たちが見つけた金塊は、実は40年前の事件の発端でもあり、
別の遭難船を救助した際に「たった1人の生き残り」と共に引き上げた代物。

その金塊を独り占めしようとした一部の者たちが結託して、
食事に毒を盛る、船内プールを銃殺した乗組員で満杯にする
などの大虐殺を行った…

それが40年前の事件の概要でした。

少女も、その時の被害者だったのです。




が、そこからが壮絶で、
船内の人間を大虐殺した連中が「ようやく金塊を独り占めした〜!」と思った瞬間、
今度はリーダー格の男が機関銃を乱射して仲間全員を殺害。

残った歌姫とニンマリ。



真の黒幕は実は歌姫だったのか!
と思った瞬間、
歌姫の撃った弾丸がリーダーの脳天に炸裂。

背後からは、真の真の黒幕と思しき長身の青年(正体は後ほど)が登場。
歌姫とこの青年が結託していたようなのです。



これで恋も金塊も両方ゲットよ〜
(多分)歌姫が思った瞬間、
近くに吊るしてあった鋼鉄のフックがなぜか彼女のノドに炸裂。
宙吊りになった歌姫はそのまま死亡。


という、裏をかくにもほどがあるビックリ展開の連続で、
とにかく乗船していた600名近くの人々が、真の真の首謀者を除いて全滅

これが、40年前の事件の真相だったのです。




では、この首謀者の青年は何者だったのか?

この豪華客船の探索を主人公たちに依頼した
青年フェリマンに似た、この男の正体は…
ずばり、フェリマン本人

このフェリマンこそ、
惨殺によって得た魂をサタンに献上するために遣わされた
地獄からの使い魔だったのです。


えー・・・  ( ̄Д ̄;)



いや、600人を惨殺した手腕はたしかに「さすが使い魔」と
唸らせるものがありますが、その後、主人公たちのような
「お宝目当てにホイホイついて来そうなサルベージチーム5人ちょっと」に
セッセと声かけしている姿は、なんかちょっと違くね?というか、
造花作りのアルバイト並の地道さを感じずにおれません。

使い魔と言えども、しょせんはヒエラルキーの最下層。
平社員の哀愁を感じさせて、涙ぐましいものがありますね。


真犯人相手に同情の涙を流すホラーというのも良いものですね (良く無ぇ



で、ラストは、たった1人生き残ったヒロインが、
近くを通った客船に救助され(通常の航路から外れた海域なのに…)
近くの港に生還するが、乗せられた救急車の扉が閉まる瞬間、
死んだはずのクルーたちフェリマンが例の「金塊の入っているらしい木箱」と共に
別の船に乗船していく姿を目撃して恐怖の絶叫


「これで続編を作るときの伏線もバッチリだぜ!」という
制作サイドの 自己満足の笑み 会心の笑顔が見えるような光景でジ・エンドです。





全体的に見ると、常に船内にユラユラと海面からの照り返しが映って、
幻想的な画面作りという意味ではかなり成功している作品と思います。

ラストの、霊たちが成仏(?)して
天に昇っていく光景なども溜息ものの美しさです。

が、そのせいで、ホラー物の味わいである
「油断したら殺られる」ようなギラギラした恐怖感が希薄になり、
少女の幽霊が早い時点で味方と分かってしまう事もあって、
何かツアーのような安心感が漂ってしまっています。


制作サイドは、結局どういうユーザー層にどういう映画を発信したかったのか?

お耽美派でもない、ホラーでもない。

その中途半端さが、この映画を
「悪くはないけど、二度観る価値は無い」
レベルに留めてしまっているように思うのです。






[戻る]