『マジンカイザー』





2001年 日本

監督 : むらた雅彦



執筆日 : 2009年 05月22日





■第1章 『全7話』


『マジンカイザー』は、巨大人型ロボットが、悪の巨大ロボットと戦う
ロボットアクションで、全7話のOVAです。


往年の名作『マジンガーZ』、続編の『グレートマジンガー』
ベースとした世界・人物設定の中で、
それまで主人公たちの乗っていた巨大ロボットを
はるかにしのぐ性能を持つマジンカイザー

そんなマジンカイザーを駆り、
ドクターヘルの世界征服の野望を阻止するために戦う
主人公の青年兜 甲児の物語です。


まずは以下に、各話の内容を大ざっぱにまとめてみます。
当然ネタバレバリバリですから、未視聴の方はご注意ください。





 ドクターヘルが、再び世界征服の野望に向けて動き出した。

 光子力研究所を襲う機械獣軍団に対して、
 マジンガーZ・グレートマジンガーが応戦するが、
 グレートマジンガーは大破、マジンガーZは鹵獲(ろかく)され、
 操縦者兜甲児は行方不明となってしまう。

 後日、機械獣軍団と、鹵獲・改造されて敵の戦力となってしまった
 マジンガーZが、再び光子力研究所を襲う。

 なすすべもない研究所だったが、突如現れた巨大ロボットマジンカイザー
 機械獣を圧倒。 マジンガーZをも粉砕する。

 一難去ったと思いきや、今度は研究所に対して攻撃を開始するマジンカイザー。
 研究所の命運や、いかに。




 マジンカイザーは、甲児の祖父兜十蔵博士が、
 孫の危機を想定して残した新しいマジンガーだった。
 しかし、その圧倒的なパワーは操縦者にも大きな負担をかける。

 マジンカイザーが研究所を襲ったのは、操縦者である甲児が
 中で気絶していたためで、自動操縦によるものだったらしい。

 マジンカイザーの操縦にもじょじょに慣れた甲児は、
 再び襲ってきた機械獣軍団を圧倒。

 大破したグレートマジンガーの操縦者剣鉄也は、療養と
 マジンカイザーについての情報を集めるために、研究所から旅立つ。




 マジンカイザーは強力でも、操縦者兜甲児はただの人間。
 ロボットに乗る前に暗殺してしまえば、マジンカイザーも恐るるに足らず。
 と考えたあしゅら男爵は、三つ子のサイボーグ娘ガミア
 甲児暗殺を命令する。

 登場するたびに「ガ・ミ・ア」の文字のポーズをとる3人を、
 戦闘機パイルダーで仏っ殺す甲児。

 その後に現れた機械獣も仏っ殺して、めでたしめでたし。




 「商品としてのツカミの弱さは、エロで補強すべし」と考えた
 (かどうかは知りませんが)結果、第4話はエロ話になりました。

 海水浴に来た皆(ロボット持参)は、女性キャラにサンオイル塗ったり、
 水着のままでロボット操縦したり、敵の基地に潜入して
 ボイン(死語)を見せたりします。

 近くの海底から光子力研究所の破壊工作を進めていた「あしゅら男爵」と
 その部下と機械獣をボコボコにしてハッピーエンド。 




 直接攻撃ではマジンカイザーには勝ちめが無い「あしゅら男爵」は、
 研究所の総指揮官弓教授にバケて、
 内部から研究所を破壊する事にしました。

 が、今日が誕生日ということでパーティに引っ張り出され、
 右往左往のあしゅら男爵。
 結局正体がバレた上に、研究所の爆破も失敗。
 ほうほうのていで逃げ去ります。

 その頃「ドクターヘル」は、機械獣のふるさと「バードス島」の遺跡内へ。
 そこで都合よく、さらに強力な機械獣妖機械獣を発見。
 さらなる世界征服の野望をたぎらせるのでした。




 妖機械獣をしたがえて光子力研究所を襲うドクターヘル。
 しかし、妖機械獣は呆気なくマジンカイザーが倒してしまいます。

 安心しきっていた甲児たちですが、突如、
 味方のロボット「ビューナスA」が研究所内で大暴れ。
 先ほど倒した妖機械獣が、ビューナスAの内部に寄生していたのです。

 研究所も妖機械獣に囲まれて大ピンチに陥るが、
 なんとかマジンカイザーの搭乗に成功する甲児。

 ところが、合体機械獣に捕えられ、富士山の火口に投げ捨てられてしまう。
 甲児の運命や、いかに。


 というか、前話で大々的に発見された割に、妖機械獣の存在感が薄すぎ




 機械獣の総攻撃を受けて、壊滅してしまう光子力研究所。

 そこに現れたのは、「兜十蔵博士」自らが製作した、
 真の力を持つグレートマジンガーと、それを操縦する「剣 鉄也」。
 
 富士山の火口に落ちたマジンカイザーも、合体して空を飛べる
 補助メカカイザースクランダーによって 都合よく 救出される。

 日本に接近してくる「ドクターヘル」の移動要塞に降り立ったマジンカイザーは、
 最後の合体機械獣として現れた「あしゅら男爵」にボコボコにされる。

 が、突如操縦席に現れたなにかの意思体みたいなやつの力によって、
 マジンカイザーの胸から『巨大な剣』が登場。
 マジンカイザーは、あしゅら男爵を真っ二つに。

 そんなこんなでドクターヘルを追い詰めるが、脱出ロケットで逃げられる。
 爆発に巻き込まれるマジンカイザーを、
 またまたカイザースクランダーが救って、めでたしめでたし









■第2章 『良し悪し』


以下は、当作品から感じた良し悪しです。



『アクションとしてのボリュームあり』


さまざまな機械獣マジンガーたちがドッカンドッカン戦うので、
アクション好きであればかなり楽しめると思います。

中途半端な3・4・5巻以外は、お勧めです。




『デザインが、永井豪している』


『デビルマン』などのバイオレンス物も有名な永井豪先生ですが、
意外にもそのデザインにはが多く使われており、
プロポーションに関して言えば
重厚さよりもコミカルさを感じさせるロボットが多いです。

当作では、その辺りを熟知したデザインが施されており、
ロボット物とは思えないほど「丸」が多い。

ロボットというより風船人形のように感じる場面が多いのは、
逆にいえばこの作品が永井デザインをキチンと再現している証と言え、
スタッフの努力に頭が下がります。




『中途半端なマジンカイザーのデザイン』


これは僕個人の好き嫌いの範疇かもしれませんが、
当作品の主役ロボット『マジンカイザー』の、
「従来のマジンガー」と「悪魔」の中間をねらったと
思しきデザインが、どうにも中途半端に感じます。

『最終的には生物的になるマジンガーなんだけど、
今は変身途中だよ〜ん』と脳内設定して観てみるとシックリきますが、
もちろんそんな設定はありません(笑)


マジンガーと悪魔ロボットと生物

この2つそれぞれに関して、
もう少し露骨にシフトしたデザインになっていれば、
明確な個性が出せたのではないか?と思います。

個人的に、Zを基調としながら一貫して「シャープさ」を追究した
旧作主人公『グレートマジンガー』のデザインは秀逸だと思います。




『カイザーとしてのオリジナリティの薄さ』


往年の『グレートマジンガー』もそうでしたが、
マジンカイザーの武器を見てみると
『マジンガーZの武器の名前が変わって、
エフェクトがハデになっただけ』
のものが多いです。

それだけでも「カイザーらしさ」というものが見出しにくいのに、
第3話で「ガミアQによる甲児暗殺が謀られる」など、
「まんまマジンガーZ」な部分が多々見られるので混乱します。


兜十蔵博士が生きている以上、原作漫画とは異なる設定の世界が
「マジンカイザー」なのだと思います。

なのに、そこで展開される物語が原作の焼き直し


また、「暗殺」「エロ話」「潜入時のドタバタ」が描かれる3〜5話の、
ロボットアクション物としての間延びには心底ウンザリさせられます。

一体この商品は、誰に向けて発信されているのでしょう?




『軽い音』


主人公サイドのロボットの効果音が軽い(高音な)ため、
なんか弱そうに感じてしまいます。




『動きすぎのロボット』


バッタのようにピョンピョン画面内をはねまわるロボットは、
すごく軽くて弱そうです。

いや、そういうロボットも、いていいと思うのです。

でも、巨大で重厚そうな敵や要塞までもが
シーンによってはピョンピョン跳ね回っているので、
どれもあまり強力そうに見えず、盛り上がりません。




『動きの速い爆煙』


爆発後の機体から立ち上る爆煙の動きが速いのが、残念でした。

煙の上昇が速いと、相対的に近くの物体が小さく見えてしまい
せっかくの巨大感・重厚感が減ってしまうのです。




『成長が感じられない主人公』


危なくなると、都合よく仲間登場

危なくなると、都合よく新装備

あとは力押し



昔からのロボット物のお約束とはいえ、ご都合主義の連続で、
さすがに観ていて苦笑するシーンも多いです。

「甲児が操縦者として成長したから」
という理由で最後に発動するカイザーブレードに至っては、
製作サイドの自虐ギャグなのでは?と疑ってしまうほど。

全7話という尺の短さのため限界もあるでしょうが、
原作のトレース(3話)・エロ話(4話)・ギャグ(5話)
を入れているヒマを、他の箇所についての掘り込み描写に費やしていれば、
作品としての重みも増したのでは?と思うと残念です。







■第3章 『変身型・搭乗型』


僕はロボット物は、
『変身型』『搭乗型』に大分されると思っています。



変身型とは、主人公が乗り込んだロボットが、
巨大化した主人公のようになめらかに人間的に動くロボット物


ハヤタ隊員がウルトラマンに変身するような、
『乗っているロボット = 主人公』を感じさせる表現です。

ガンダムシリーズで言うと『SEED』あたりがこれに該当します。
変身願望の強い若年層などに支持されます。



一方で搭乗型とは、ロボットはあくまで重機のように表現され、
乗組員の操縦テクニックがロボットの能力を上下させる表現
です。

ガンダムシリーズで言うと『第08MS小隊』などが該当し、
ほどよいリアリティを好むユーザー全般に年齢を問わず支持されます

僕は個人的に、後者が好きです。



なぜ突然こんな話を始めたかというと、
「マジンガー」シリーズのOVAを作るなら、
『搭乗型』のほうが良いのではないか?
と思ったからです。
(本作は変身型に分類されると思います)


これは、個人的な好き嫌いの話ではありません。

こうしたOVAの販売対象である社会人男性の好みが
「搭乗型」寄りなのももちろんですが…

マジンガーZは元々、
『ロボットに搭乗し操縦する喜びを表現したかった作品』
という永井先生の言葉があるからなのです。



マジンガーを変身型として描いても、
それは永井豪の絵と設定だけを借りてきた他人の商品に過ぎず、
主人公の周りを取り巻く世界やキャラとの不具合や無理が出てしまう…

異なるベクトルの要素が足を引っ張り合って、
1+1が2になれていない…


原作者が作品世界を創造したときに目指したのと同じベクトル
を追ってこそ、良い物作りはできるのでは?

と思うのです。



もし今後、永井豪先生以外の方が「マジンガー」世界を扱い、
『搭乗型』のロボットとしてのマジンガーを描いて下さったとしたら、
僕はその作品を必ず拝見しますので、ぜひ、よろしくおねがいします。






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