『ベクシル 2077 日本鎖国』





2007年 日本

監督 : 曽利文彦



執筆日 : 2010年 01月19日





■第1章 『厨二臭と、パロディ臭』


2009年末深夜にやっていた
『ベクシル 2077 日本鎖国』という、
フル3DCGアニメを観ました。


3DCGは、頑張っていたと思います。

でも、何でしょう…

この、見終わった後の言いようの無い不快感は?



当映画に、全編通して流れているもの…

それは、『厨二臭』『パロディ臭』です。


前者は、『あたかも現実の経験の浅い人間が、
ちょっと聞きかじった知識で無理して書いたせいで、
細部の描写が甘々、どこまでいっても『作り物』感が抜けない、
そんな雰囲気がただようような物語・演出』
から…

そして後者は、
『出典は不明だけど、どう考えてもいつかどこかで見たような、
デジャブ感ただようお決まりの展開・アングル』
から…


なにか、表面だけ『攻殻機動隊』あたりから借りてきた要素を寄せ集めて、
どうにか形にだけはしましたよwwwww みたいな手触りが不愉快です。



なんとなく、これ『韓国か中国製』なんじゃないか?と疑っています。

別に上記の国にウラミは無いですが、
僕はあれらの国の商品に一貫している
『他者の作品の良い点をチョロまかして、
小手先だけで寄せ集めただけの、要領重視の物作り』
にだけは、
1人の物作り人間として常々不快感を感じています。

そして、この映画に流れている雰囲気は、
ソレととても近いのです。



ただ、確定はできませんでした。

制作会社の『OXYBOT』は、どうも海外の会社らしいので、
やっぱりそうなんじゃないかなー?とは思っているのですが…


取りあえず、「韓国・中国ぽい」などというあいまいな言い方では、
この映画のヒドさを批評したことにはなりません。
以下に、手の届く範囲でツッコミを入れてみようと思います。

物語展開と批評を同時にこなすため、
当然「ネタバレ」バリバリです。


本編を観てから批評を… と、お考えの方は、ご注意くださいね。







■第2章 『鎖国! 2077年 日本国』


まず、時は21世紀半ば


21世紀中期までに高度のロボット工学を築き上げた日本は、
その方面で世界の産業・軍事にまで発言力を持つまでになっています。

今の不景気を目の当たりにしている我々にとって、
なかなか輝かしい未来ですね(笑)


ところが、そんな日本の躍進に対して、
『国際連合』は大幅な規制を実行。

日本人ばかり良い思いしてんじゃねーよ
という所でしょうか?

さすがは正義(笑)の国連です。


それに対して日本は2067年、本土を囲む近海に、
強力な電磁ジャミング等を施した『ハイテク鎖国』を決行。

駐留している外国人を強制退去させ、
ロボット貿易以外の国民の国外への行き来を全面封鎖。

米国お得意の、衛星による他国土監視も効かず、
日本国内の現状は、まったく外国の
感知できない
ところとなってしまいます。


それでも、世界における日本の、
ロボット工学に関する影響力は持続しており、
日本は暗黙の特権階級のように世界に君臨しておりました。


そして、10年の月日が流れ… 2077年の米国

政府直属のロボット自衛隊みたいな部署『S.W.O.R.D.』に、
恋人『レオン』と共に勤める、主人公の女性『ベクシル』

雪降る山奥の洋館に集まった各国の要人が、
日本最大のロボット企業『大和(だいわ)重鋼』
から派遣された男『サイトウ』に殺害される…

という事件現場に、彼女らが急行したところから物語は始まります。





この導入部分からして、
すでにツッコミ所満載です。


不当な規制をかけられた日本国側が、
追い詰められてやむなく行った鎖国を、まるで悪者扱い。



人気の無い物騒な洋館に、
大したガードもつけずにノコノコ出かけて
あっさり殺害される、各国要人の平和ボケぶりも苦笑です。



主人公たちに追い詰められたサイトウが、
仲間の航空機によって助け出されて逃げるのですが、
その航空機は片翼で洋館をブッたぎって
内部にいるアーマー部隊を蹴散らす破天荒ぶり。

この洋館はハリボテですか?





この導入の10分ほどで、分かる者にはピンとくる
キナ臭ーいにおいがただよってきます。

この物語を書いている人(あるいは演出家)は、
『見た目さえハデならOK』で逃げ切る、
あまり頭の良くない人なのでは…? という懸念です。

その予感が正しいかどうかは、
以降を読むことで明確になっていくことでしょう。







■第3章 『潜入! 三丁目の夕日』


この事件がキッカケで、
現在の日本に何が何でも潜入する必要が出てきた、
世界の警察(笑)「米国」。


『レオン』は、自ら志願して
この危険なミッションに身を投じます。

その理由は、先日の貿易港の警備の際に、
日本船から飛び出してきたバイクの少年が
死に際にはなった一言、『マリア』

それは、かつて彼が日本に駐留していたときに
付き合っていた女性と同じ名前だったのです。


…て、日本人名でマリアて、すごいな。


しかも、「過去の女と同名」というだけのちっぽけな情報1つで、
彼氏にヒョイヒョイ命がけのミッションに身を投じられては、
現在の彼女であるベクシルにとってはたまったものではありませんね。

ご同情もうしあげます。



という事で、ベクシルも、そのミッションに参加。

ミッション内容は、
『日本の船舶に潜入して、その甲板上から発信機を作動。
3分間発信を維持できれば、
それを元に静止衛星がジャミングパターンを解析し、
そのデータで日本全国のジャミング機器を無効化できる』

というものでした。



で、潜入するベクシルたち。

日本の領海内に入ってから、甲板で発信機を作動。


あと10秒ほどで3分たつぞ〜… という場面で、
あっけなく敵に見つかって包囲されるベタベタの展開

しかも、包囲している敵の中には「サイトウ」の姿まで。

チクられたんじゃね?と思うほど一方的にバレバレな状況で、
かろうじて海に飛び込んで日本本土に逃げおおせるベクシル




ふと目を覚ますと、どこかの粗末な小屋の中
傷の手当てがされて、布団の中で横になっていました。

世話をしてくれていた少年『タカシ』や、
同じくその小屋に出入りしているらしい女性『マリア』
あのバイクの少年が命を賭してその名を伝えた女性本人から、
今の日本の現状を知らされます。


マリアたちは、現在の日本を統治している大企業『大和』に対して、
レジスタンス的な行動をしている
のだそうです。



…て、ちょっと待った待った。

何ですか、このデタラメなスピード展開は?


いや、本編を観れば、ここまででも随分いろいろと
派手なアクションシーンがあったりして、
決してスカスカではないのです。

ところがこうやって文章にしてみると、本当に驚くほど
『物語の中間や細部が描写されていない』。



『なぜ、あんなに呆気なくベクシルたちの入国が察知されたのか?』

『上記は、確実に捕まえるつもりであえて入国させた可能性もあるが、
その後、泳いで逃げるベクシルをあっさり取り逃がすあたり、
あまりにも警戒がザルすぎないか?』

『鎖国している日本(本土)に、
瀕死のベクシルがどうやって上陸できたのか?』

『上陸できたとして、なぜ呆気なくマリアに辿りつけたのか?』



そういう、キチンと描写すれば物語の厚み見せ場
増えるようなところを、スッパリ捨て去っている潔さが、
この 素人が書いたとしか思えない薄っぺr
スピーディな展開を生んでしまっているのです。

こうした、ダイジェスト版を思わせる駆け足ぶりは、
この映画の最初から最後まで貫かれている姿勢(笑)です。




さて、そんなベクシルが見た、鎖国10年を経た東京は…


建物はせいぜい2階建て、道端にあふれる露店、
素朴な笑顔がこぼれる人々、町の彼方にはオレンジの夕日…



なんか『三丁目の夕日』みたいですね、西岸先生







■第4章 『衝撃! 人体実験列島 日本』


そんな素朴な町の人々に好感を抱くベクシルでしたが、
すぐに「サイトウ」たちに居所をかぎつけられ、
またも追われることになってしまいます。

町の人々の中に、「大和」との対立を
好まない人々がいるため、チクられたようです。


町をグルリと囲む全高100メートルほどの壁のてっぺんに逃げて、
サイトウたちをまいたベクシル一行。

そこから眺める東京の外は、
草1本、川1つ流れていない、完全な荒野でした。



そしてマリアから語られる、鎖国後10年の日本の真実


「大和」は政府と結託して、
伝染病予防と称して人々の体内に『ナノマシン』を注入。

ナノマシンは自動的に生体細胞を機械細胞へと置き換え、
やがて脳までが機械となってしまった人々は、
「大和」の実験材料と化してしまう。

つまり鎖国は、日本人全人口を費やした
壮大なサイボーグ試験場のための措置だっt…




…待ってください 待ってください。

これをお読みのあなた。
帰らないで、お願い。


分かっています。
物語が支離滅裂すぎと言いたいのでしょう?

分かります。
僕だって、上の文章書きながら
頭がおかしくなりそうだったのですから。




「いくらナノマシンを注入したからといって、
普通の細胞から勝手に金属が生まれて
機械細胞になったりするかよ
とか、


「人体実験でそんなに基本人口を減らしちゃったら、
生産力が激減して国として崩壊するだろ
とか、


「100歩譲って東京以外全滅だとしても、
なんで、それらの土地から
草木と水まで枯渇するんだよ
とか、


少しでもソレ方面の知識がおありの方から見れば、
シナリオライターの正気を疑う内容が目白押し


僕も正直、そろそろツッコムのに疲れてきたほどです。



『実は、政府と大企業の陰謀でした!』みたいな話は、
知識の浅い子供などにとって
手軽に『世の中の真実にふれたような優越感』にひたれるので、
厨房向けのアニメ・RPGなどで多用されるものですが、
それをここまで億面もなく採用しているのは凄い…



ちなみにこの荒野は、『ジャグ』と呼ばれる、
完全に機械化した上に破棄された人々の残骸が
渦を巻いて他の金属を捕食しようとする、
直径10メートル・全長100メートルほどの巨大チューブ状生物
徘徊している危険地帯でもあります。


なんでそんな生物がいるのか、生まれたのか、
原理も理由も分かりません。

人々の悲しみの念が渦巻いているとでも言いたいのでしょうか?

ちょっと切なくもありますが、
「ハイテク鎖国」を打ち出した映画で、
こんな原理不明のオカルト生物見せられてもなぁ…
と、どんどん心が萎えていきます。







■第5章 『反撃! 人間の尊厳』


自分たちはこのままでは、脳まで機械になって自我を失うだろう。
ならばせめて、「大和」に一太刀あたえて死にたい。


それがレジスタンスの皆の意志でした。
彼らが人でなくなる日は、もうすぐそこなのだそうです。


しかし、「大和」東京湾に浮かぶ人工島で、
そこに至る3つの海上トンネル
いずれかを利用しないと辿り着くことはできない。
(1本は東京に。 あとの2本は、そこから東西に離れた場所に入口があります。)

しかもそれらは、侵入者を探知すると
自動的に防御シャッターを封鎖
してしまう。

彼らが持っているジェットバギーのスピードをもってしても、
監視ポイントから閉鎖壁が閉まりきるまでの時間には間に合わない

反撃は絶望のように思われていました。 が…



そんな彼らに最後のチャンスが訪れます。


『巨大地震』

近日中に発生が予測されている巨大地震による被害を避けるため、
海上トンネルの監視システムが一時的に
「大和」から独立して機能するため、
閉鎖までの時間に50%のタイムラグが発生する
というのです。

それによって、バギーの最高スピードを維持すれば、
トンネルの閉鎖壁をギリギリで突破することが可能だというのです。

そこでレジスタンスは、バギーで鋼鉄製のケーブルを伸ばしつつ
「大和」に特攻をかける作戦を思いつきます。

このケーブルを食べようと追ってくる『ジャグ』を
そのまま「大和」内に誘導し、
施設を食い荒らさせよう
という作戦なのです。

ジャグは海を渡れませんが、
(それを考慮して、大和は海上に設置されたのでしょう)
トンネル内を走らせれば大丈夫というわけです。




…さあ、どうですか?

この、『最初にチェイスシーンを作りたいという
アイディアありきででっち上げた』

としか思えない、場当たり的な展開と設定


地震被害をさけるのと、
トンネルの制御を「大和」から切り離すのに、
どれほどの意味や関係があるのか?


すでに荒野と化した本土に、3本もの海上トンネルを
いまだに設置している「大和」の意図は一体?



というか、最初から閉めとけよ、シャッター。



…と、もうどこからツッコんでいいやら目移りしそうな物語なのですが、
僕もそろそろ『これは、頭を使ったら負けな映画』という
悟りにも似た心境に満たされてきたので、
細部はスルーしようと思います。







■第6章 『崩壊! 悪の牙城』


さあ、レジスタンスの作戦が開始されました!


しかし、海上トンネルの入口に到達するまでの間にも、
「ジャグ」に襲われて次々と倒れていく仲間たち

かろうじてトンネルに侵入した者たちも、
あるいは横壁に接触し、あるいはシャッターに間に合わず、
1人2人と激突死していきます。



さて、先ほど「細部はスルー」と言いましたが…

『これは細部では済まんだろ?』
というツッコミ箇所が、ここで出てきます。



シャッターの閉鎖壁を
ギリギリでバギーで通過したレジスタンスは良いとして…

その後ろを追ってきている巨大なジャグは、
どうやって防御壁を突破して、「大和」について来てくれるのでしょう?



だって、バギーより何10倍もデカいんですよ、彼ら。

バギーがようやく通れる程度まで閉まってきている隙間を、
ジャグはどうやって通過するんだろう??




と思って見ていましたら、


ジャグは、防御壁を難なくバカーーン!と破壊して、
バギーを追いかけてきました。





防御壁の意味ゼロ。


どうして今まで、「大和」本社が
ジャグに襲われなかったのか、首を傾げるばかりです。



こうして、多大な犠牲を払いつつも、
ついに海上トンネルを突破したベクシルたち。

あとは「大和」本社にジャグを突っ込ませるだけだー!
と思ったのも束の間、トンネルの出口と本社は切り離されており、
100メートルぐらい離れていました。


本社に届かず、ポチャンポチャンと
海中に落ちて沈んでいくジャグたち。



東京の住民のチクリによって、
レジスタンスの作戦は看破されていたのです。


レジスタンスの特攻を阻止したことにご満悦のサイトウ



いや、だから、サイトウ。
お前らが最初からシャッター閉めときゃ良かったんだよ。



この映画にはこうした、
作っている側が変に凝った展開にしようとガンバリすぎた結果、
何かが根本的に矛盾してしまい、
むしろほのかな『笑い』に昇華してしまっている展開
が盛りだくさん。

観ていて本当に 眠い 飽きません。




ちなみにこのあたりで、
当作において唯一の泣ける場面が登場します。

完全に阻止したと思われていた
ジャグの「大和」への侵入が、
まさかの成功をおさめる
のです。


実行者は、東京都民たち。

大和への最後の1つの海上トンネルの入口である「東京」に、
壁を開放してジャグたちを招き入れたのです。

ジャグに踏み潰され破壊されていく東京の町、東京の人々…

その筆舌に尽くしがたい多大な犠牲の果てに、
ジャグはさらなる獲物を求めて海上トンネルになだれこんだのです。


なんたる自己犠牲の覚悟。 これぞ日本人。

「自分たちの死によって次の時代が生まれるなら、死も辞さず」

「これで良かったんだね」という表情で、
空を覆うように迫り来るジャグたちを静かに見上げる人々の姿に、俺号泣。



どこの国かはあえて明言しませんが、
自国の正義を腕力で多民族に押しつけたり、
自国の惨状の現実から目をそらすために
日本を仮想敵にして浮かれあがる駄民
には
このシーンから何かをカケラでも学んでいただきたいところですが、
まあ難しいでしょうね…

自己犠牲は、本物の教育と、自己も含めた幅広い客観性
の果てに生まれる『選択肢の1つ』ですから。

『自分たちは選ばれた民族だ』みたいな選民主義や、
仮想敵をつくって喜べる低レベルな民度からは、
自己犠牲の精神は決して生まれません。

だから彼らは、民族としての成長が止まるのでしょうね(笑)





さて、ちょっと話が横道にそれましたが…

そんなこんなで
ジャグに食い荒らされた「大和」は崩壊していきます。


最後は、敵の黒幕の科学者が、
実は自分だけサイボーグ化していなくて
(他人だけを実験材料にしていたのでしょうね)
それを見てキレたサイトウに殺されかけたり、
主人公が追い詰めた黒幕を撃ち殺したり、
最後はレオンと再会・生還してハッピーエンドだったりしますが、
まぁどうでもいいです。


崩れていく「大和」の屋上から、
味方のヘリコプターで脱出する主人公たちを見て、
『日本のバリヤーが無くなってからの短時間で、
よくまあ間に合ったものですね。 光速ヘリ?』

などと苦笑させられますが、これもまあイイでしょう(どうでも)


黒幕の科学者に「私は神だ」みたいなことを口走らせて、
「ああ、科学は人を幸福にしないのですね」みたいな
安っぽい自然賛歌がガキっぽかったです
が、
もうツッコムのに疲れました。


話の中心であったマリアにしたって、
要は「国連の決定が絶対です」なに過ぎないわけだし、
結果的に彼女に裏切られたショックが
黒幕をあそこまで凶行に走らせたのだとしたら、
日本滅亡のトリガーこそが『マリア』だったと言えるかもしれないわけで、
考えれば考えるほど、考えるのがイヤになる話ですね。




しかも…

エピローグによると、この事件によって、
『日本民族は滅亡』したのだそうです。



誰が観て楽しむのでしょう、この映画…???


ネット上のレビューを見ていたら、
『反日映画では?』という評にけっこう出会ったのですが、
たしかに僕にもその印象が強い…


さらに、そうした批評を載せているブログに、
コメント欄で大反論している輩
もいるのですが、
どこをどう見れば反論できるのか、そちらのほうが不思議でしたが。





総括ですが、
派手なアクションが好きで、頭を使うのが苦手な人なら、
まあ楽しめるのではないでしょうか?


その内容のヒドさに、朝に視聴した直後に批評を書きはじめ、
うちの映画批評の中でもほぼ最大のテキスト量にも関わらず、
ほぼ1日で書き上げてしまった当批評。


自分にとって、この作品からただよう不快感が、
並々ならぬ物であったことを証明するような気がしています。

少なくとも、2時間を費やして観る価値はありません。
この内容なら、1時間にまとめてほしかったところです。


本来なら「評価 D」ですが、アクションシーンは楽しめたので、
グラフィッカーの皆さんの努力に敬意を表して
「評価 C」にしようと思います。







[戻る]