『人造人間ハカイダー』





1995年 日本

監督 : 雨宮慶太



執筆日 : 2012年 10月05日





■第1章 『ハカイダー、初対面』


『人造人間ハカイダー』は、

往年の有名特撮番組『人造人間キカイダー』の中で、
主人公キカイダーのライバルキャラとして登場した
敵の人造人間ハカイダーを…

新たな世界観・設定の中で、主人公として描く
という、非常に珍しい映画作品です。



実は自分、「人造人間キカイダー」自体を観ていなかったのですが、
この映画だけは前々から「観たい!」と思い続けておりました。

というのも、愛読書の1つ、『帰ってきた怪獣VOW』(宝島社)の中で、
この作品が非常に好意的に紹介されていたからです。



「キカイダー」を観ていない自分が、
いきなり単独のハカイダーの活躍を観たとき、
どのように自分の目に映るのか…?


という、純粋な興味もありました。



したがって以下では、

「ハカイダーはこんなじゃない」とか、
「カッコ良くなったな〜、ハカイダー」
みたいな往年のファンによる視点ではない、

当映画で初めてハカイダーを目にした者による批評
を展開したいと思います。


キカイダーフリークには物足りない批評かもしれませんが、
そこはどうかご容赦ください。







■第2章 『ヒーロー 見参』


まず、ハカイダーのデザインや挙動が、
個人的に非常にツボでした。


僕は、ヒーローに不可欠な要素の1つに、
『重厚さ』 『父性』 があると思っているのですが、

当作の主人公ハカイダーは、
全身が黒、怒り面のようにひん曲がり食いしばった口という、
重々しく厳しい面構え


敵の弾丸の雨あられの中を、
無表情かつ寡黙に前進しつづけるその姿には、
漢(おとこ)を見ずにおれません。



必殺技らしい必殺技を持ちませんが、

愛用のショットガンで
敵を撃ち抜き、壁を吹き飛ばし、

肉弾戦となれば敵を無慈悲に殴りつけ、
倒れた者の頭を踏み砕くさま
は圧倒的…



無骨なまでに、ヒーロー。

それが、僕の目に映ったハカイダーでした。







■第3章 『効果音が…』


と、ハカイダー自体については
非常に好印象を抱いた
僕なのですが…


なぜか見終わった後、
もうひとつ大きな満足感を得ることが出来ませんでした



考えられる理由の1つは、『効果音』 です。


火器を使用しているときはそうでもないのですが、
肉弾戦になった途端、
なぜか効果音が非常に軽くなってしまうのです。


先ほど、「倒れた者の頭を踏み砕く」と書きましたが、
そんな凄いシーンなのに、響く効果音は ぼすん… という、
ダンボールを踏んだような音…


敵は装甲服を着ているのだから、
そこはぜひ バギャス! ぐらい言ってほしいのに…



この効果音の違和感は、
クライマックスの1つである
『白い人造人間』との戦闘時においても顕著でした。

両者は機械人間なのですから、
肉弾戦において「金属同士がぶつかる音」が鳴るのは
間違っていないし、カッコいいと思うのですが…



肝心のその音が、

カ〜〜ン だったり

チ〜〜ン だったりするのです。



せっかくの緊迫のシーンなのに、響く効果音はまるで、
仏壇の前に置いてある 小さな鐘(鈴)


思わずテレビの前で合唱して
南無阿弥陀仏… とか唱えちゃいましたよ 嘘ですが。







■第4章 『というか、ストーリーが…』


あと、これは、
シナリオライターが悪名高い 井上敏樹 だから、
ある程度は仕方ないのかもしれませんが…


物語というか展開が 支離滅裂 すぎて、
素直に感動できないんですよね。




たとえば、ハカイダーは、
その「軍隊にも匹敵する圧倒的な力」を持ちながら、
敵の親玉のコントロールを完全には受け付けなかったために、
危険な存在として彼方の地に幽閉されていたらしいのですが…

そんなヤバい存在を、目の届かない場所に、
しかもガードも付けずに置いておく親玉の気持ちが知れません。





結果、地方のありふれた盗掘か何かやってる若造たちが
「お宝」と勘違いしてハカイダーの封印を解いてしまいます

「封印を解く」といっても、
彼らがしたのは 入口を開けただけなんですけどね。


なのに、封印されていたはずのハカイダーは、
目を覚まして、封印の巨大な鎖を引きちぎって大暴れ


見逃してやればいいのに、若造たちをブチ殺して、脱出完了です。




続いては、自分同様に封印されていたバイクの鎖も引きちぎり、
愛車にまたがって、親玉のいる街に向かって一直線のハカイダー。


あれ? 冒頭で「自分には記憶が無い」的な言動を見せていたくせに、
自分を封印した親玉のことは憶えているのでしょうか?



というか、

封印はするくせに、
バイクのガソリンは ちゃんと
入れっぱなしにしておいてくれた

敵の親玉っていったい…




ハカイダーが街に着き、
負傷して、レジスタンスたちに助けられたときも、

「この隠れ家は、簡単には見つからないぜww」とか
自信たっぷりのレジスタンスのセリフの直後に、

あっさり敵に隠れ家が発見されて
銃撃戦で全滅したレジスタンスたちが、
不憫というか、苦笑というか…




レジスタンス最後の1人となった少女が、
死ぬ間際に街をヨタつきながら、人々に向かって、

「この社会のおかしさに立ち向かおうとしないあなたたちも、また悪だ」

みたいなカッコいいセリフを残して息絶えるのですが…


たしかこの街の人たちって、
『悪の親玉に反抗的な態度を見せると、
脳にチップを埋め込まれて、自分の意思を無くしてしまう』

という話だったと思うのですが?

「社会のおかしさに立ち向かった」結果、
脳改造されて、社会に疑問を持たない民衆にされてしまった人たちも、
中には混じっていると思うんだけどなぁ…?

物事、単純な全否定ではいけませんよ、少女よ。



付け加えるなら、

どうして今回のレジスタンスたちは、
捕らえられて脳改造 という流れではなく、
いきなり撃ち殺されたんでしょうね?





「白い人造人間」を破壊され、ハカイダーと再会した親玉が、
「私ならもっとお前を強くしてやれるものを…」とか言って
和解を持ちかけるシーンも、考えてみると変です。

親玉の片腕である「白い人造人間」すらフルボッコしたハカイダーに、
『より強い力を与えてやる』という条件が、
いったいどれほどの価値があるというのか…??


交渉ヘタすぎですよ? 親玉さん。




と、こんなふうに、

一見よく考えられた話のように見えて、
根本的なところで大矛盾を起こしている あたりが、

井上敏樹先生 の安定したクオリティ と申せましょう。







■第5章 『生首ヒーロー』


ちなみに、

一度は首を引きちぎられて絶命したかと思われた「白い人造人間」が、
5メートルほどもある重機と合体して、顔つきも変化し、
ハカイダーに最後の戦いをしかけてくるシーンも相当アレです。


この戦いにも敗れた彼は、再び生首になってしまうのですが、
そのときの顔の色というのが、左右が半分ずつ、赤と青 という、

ものすごく露骨に、あの人そっくりの顔になって、

「ワタシは、正義…  ワ タ シ は… 正 義 …」
とつぶやきながら機能停止(死亡)するのです。



青臭いストーリー(主張)も鼻につきますが、

それ以上に、往年のキカイダーファンにとっては
不愉快きわまりないシーンだったのでは…?
と心配です。




そういえば、親玉のファッションが、
何かを勘違いしたビジュアル系アイドル
みたいだったのも、痛々しかったですね。


天使の羽はやめなさい、天使の羽は。

あと、カタコトの日本語も。





総評としては、

ハカイダーのデザインや挙動はすごく良かったのに、

効果音などの違和感や、矛盾だらけのストーリーに水をさされて、
満足度は及第点止まり…
 といった所でしょうか?


単純に、『ハカイダーが、親玉の復讐に一直線』な話のほうが、
良かったというか、個人的にそういうものを観てみたかったです。






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