プレイステーション2用

ことばのパズル
『もじぴったん』


販売: ナムコ

プレイ時間 : 20時間

購入価格: 1580円

執筆日: 2007年 06月07日





■第1章 『社会的知名度』


『ことばのパズル もじぴったん』は、アクションパズルです。

一般への知名度も高い本作ですが、一応大ざっぱなシステム説明をしますね。


プレイヤーは、フィールドにすでに置かれている文字パネルに
隣接する
ように、手持ちの中から選択した文字パネルを置き、
それが単語になっていればそのパネルは配置OK。
(上から下へ、左から右へ読んだときに単語になっていればOKです)

こうして全ての手持ちプレートを使い切れば、ステージクリアです。



簡単ですね。

簡単な上に、この短い説明だけで
ゲームシステムのほとんど全てが理解できてしまう。

そのゲームが社会的知名度を得るために突破しなければならない要素の1つを、
見事にクリアしているうらやましいゲームです。



ちなみに、文字パネルを置いたときに、
同時に複数の単語ができる場合があります。
(例えば、「たい」の左に『い』を置くと、「板」と「痛い」ができますね)

この場合は、通常より高得点が得られます。



全てのプレートを使い切る前に残りタイムが無くなってしまうと、
ゲームオーバーです。







■第2章 『ありそうで無いわけではないけど、
ここまで作りこまれたものは無かった』



『もじぴったん』が世に出たとき、
「ああっ、いつか出そうと思っていた企画、先を越されちゃったよ〜!」
と嘆いた企画者か全国に20〜30人…
いや、200〜300人はいたのではないでしょうか?(笑


僕も過去にゲームメーカーで
人事にちょっとだけ関わったことがあるのですが、
パズル系の就職希望者の中にありましたよ〜、
こういう『文字を使った落ち物パズル』(伏線)

ネット上に数多あるフリーのパズルゲームの中にも、
『文字を並べて単語を作れ』というのは多いですね。

また、実際に商品として流通しているものとしては、
スーファミソフト『ロゴスパニック』(ユタカ)があります。




でも、なぜそれらは『もじぴったん』のように
メジャーたりえなかったのでしょうか?


広告力の違い? そこも確かにありますが…



実はハッキリ言って、『もじぴったん』以前の文字パズルは、
ほとんどがシステムあるいはバランス的に破綻してしまっていたのです。

つまり、ゲームになっていなかったと。



以下では、そこを具体的に検証してみましょう。

なお、アクションパズルというものに深い愛着のある自分ですので、
関連して色々な思い出も語ってしまっている部分があります。
笑ってご容赦いただけると幸いです。




『なぜそのシステムか?』


まず前者の、企画志望者やフリーゲームにおける文字パズル。

彼らの失敗のほとんどは、
盲目的に『落ち物』のシステムで処理しようとしている点にあります。



例えば、僕が見せてもらった志望者からの持ち込み企画書は、
(1990年代中ごろ。 僕が23〜24歳だったと思います。)
『1文字ずつ降ってくる文字パーツを積み上げて4字熟語を作れば、
そのパーツが消える落ち物パズル』
でした。


この企画で僕が「これはまずいな…」と思った点は、大ざっぱに3つ。



まず、『積み損なってしまった場合の救済措置が無い』ことが1点。

例えば「馬耳東風」(ばじとうふう)を作ろうとしたが失敗して、
この中のどれかに別の漢字が入ってしまった場合…
それらは、もうほとんど消せる見込みの無い邪魔物に早変わりしてしまうのです。



また、運良く4字熟語ができてそれが消えたとすると…
当然、その付近のパーツの配置に多少の変化が生まれます。

その時、『せっかく出来かけていた他の4字熟語の並びが
壊されてしまう可能性がある』
、というのが2点目です。

その結果は、上記と同様。
一度崩れたパーツたちは、まず100%リカバー不能

こうして、4字熟語ができるできないに関わらずフィールドは圧迫され、
プレイヤーは不本意なゲームオーバーに至るのです。



そして3点目は、
『文字を使うことによって、プレイヤーの視認度が低下する』です。

例えば『コラムス』(セガ)は、パーツに宝石を使っていますね。
どうしてでしょう? 綺麗だから? それもあると思います。

でも本当の狙いは、宝石という色の塊のようなパーツを使うことで、
プレイヤーの瞬間的な視認度を上げているのだと思います。


文字パーツは、落下スピードに比例して、
誤読してしまう可能性が高まります。

別の文字と勘違いして、せっかくの並びを台無しにしてしまう恐怖と
戦いつつのプレイは、相当に息苦しく、
そんなもの、誰も遊びたくないですよね?


(ちなみに僕は1990年代の終わりごろ、アキバの同人ショップに
置かれているパソコンで遊べた体験版ゲームで、似たような経験をしたことがあります。
たしか『上から2個1組で降ってくる、皿にのった料理パーツたちを3つ以上並べて消す落ち物』で、
ウェイトレスだかメイドだかのグラフィックがご褒美に見れたと思います。

キーレスポンスなどは底々でしたが、遊んでてとにかくパーツを間違い、不愉快でした。

細部は憶えていないのですが、例えば「カレー」と「ステーキ」があったとします。
どちらも茶色っぽいパーツなので、落下速度が速くなってくると見分けがつかなくなるのです。
「見た目は良くても、しょせんは素人か…」としみじみ実感した記憶があります。)




以上から、文字パーツと「落ち物パズル」の相性は、
最悪 と断言できますので、
これを読んでいるアマの皆さんがもし就職作品を作っているのなら、
ゆめゆめ『文字パーツを使った落ち物』など企画しないように。

作るのなら、以上の弱点をキッチリ克服したシステムを提示しないと、
面接官が実力者なら1発で看破されてしまいます。

まぁ逆に、そんな企画を「いいねいいね」などと鵜呑みにするような会社なら、
入社してから後悔する危険が大きいので、
こちらが先に見抜いて早めに理由をつけて帰宅したほうが
あなた自身の為であることを、老婆心ながらご忠告いたします。(笑





 ・他人の企画書を例に挙げるのは迷ったのですが、あれから10年以上経っている事と、
  すでにフリーゲームで同様のシステムの作品があふれている事から掲載しました。

 ・例に挙げたとはいえ、この企画を書いた人が考察力が無いというわけではありません。
  アマはもちろんプロでさえ、ジャンル・システムをこえて同様の失敗をしてしまって
  いる例は、枚挙にいとまが無いほどです。 情けないことですが…





さて、対する『もじぴったん』ですが…

フィールドを文字通り平面とすることで、
パーツ配置の自由度を上げ(隣接さえしていれば、どこにでも置ける)
手詰まりの可能性をユーザーの工夫いかんで減少できるようになっています。

この、『工夫することで、ある程度意図的に有利な展開を導ける要素』こそが、
ゲームをゲームたらしめる要因です。

皆さんもゲームを作る機会があれば、自分のゲームの中に
それがあるかどうかを見直してみてはどうでしょう?



ちなみに、『もじぴったん』以前にも、
フィールドに文字パネルを置くことで単語を作る市販ゲームに、
先述の『ロゴスパニック』がありますが…

『もじぴったん』に6年先んじるにも関わらず、
時代の波に消えた『ロゴスパニック』。
その理由は各自でお調べになって下さい。

うちでも批評しているので、参考までにどうぞ。
5年近く前の批評なので、だいぶ稚拙だとは思いますが…





『パーツの種類は?』


素人が「落ち物パズル」を作るとき陥りやすい失敗の1つに、
『パーツの種類を増やしすぎてしまう・あるいは少なすぎ』
というものがあります。

特に「文字パズル」の場合、ひらがななら50種類近く。
漢字でも、上記のような「4字熟語の落ち物パズル」を作れば、
ある程度の幅を持たせるために最低30〜40種類は用意すると思われます。


落ち物パズルで、落下パーツの種類を増やしすぎるとどうなるか?

簡単ですね。

上記のくり返しになりますが、
『失敗後のリカバーがほとんど利かず、
偶発的な連鎖もほとんど発生しないため、
真綿で首をしめられるように一直線にゲームオーバーになる』
です。



逆に、スタンダードな『コラムス』なら、
宝石パーツの種類はたしか6〜7種類

この数に抑えているからこそ、1回目の破壊で並びが変わったときに
偶発的な連鎖が生まれる可能性・期待感が生じます。
プレイヤーに連鎖のタネを仕込んでおく余裕も生まれます。


これが文字パーツになると、パーツの種類の多さがネックとなり、
確率的に、タネを作るのさえ運まかせ

そこに期待通りの起爆パーツが降ってくるのを待つわけですから、
その前にゲームオーバーに達してしまうのは、むしろ当然といえます。



『もじぴったん』は、そこをどう解消しているのでしょう?

当作品の場合、ステージごとに与えられる「手持ちの文字パネル」
ランダムではなく固定出現になっています。

これが後述の「パーツごとの優位性」を考慮したバランスで
組まれているので、何度か失敗するうちに、そのステージで有利な
「単語の組み合わせ」が見えてきて、徐々にクリアに近づける。

それでいて、クリアの過程はプレイヤーごとに異なる

そんな、シューティングやアクションゲームの良さの1つを、
巧みにパズルに採用しているのが『もじぴったん』なのです。





『パーツごとの優位性』


「落ち物パズル」の大ざっぱな基本ルールの1つに、
『パーツごとの優位性が無い』点が挙げられます。

これはつまり、『コラムス』の宝石パーツにおいて、
赤のほうが消えやすいとか、青はなかなか消せないとか、
そんな差が全く無いことを指します。

それぞれの色が同じ確率で降ってくるのなら、
赤も青も消しやすさに差が無いのは当然ですよね?



では、この均衡が崩れるとどうなるか?

『消しにくいものを優先して消さなければ不利になる』という、
ややマニアックなゲーム目的が新たに発生するのです。

古くは『ジョイジョイキッド』(SNK)硬いブロック(複数回破壊しないと消えない)や、
『もうぢゃ』(ETONA)貨幣パーツ(1・10・100円は5つ。 5・50・500は2つで消える)
あたりが有名ですね。



実は『もじぴったん』のような文字パズルで
「並べて云々」をシステムに盛り込んだ場合、
この「パーツごとの優位性」は、避けては通れない問題なのです。

文字パーツごとの優位性… と言われてもピンとこない方は、
当ゲームの文字パーツは『置いた時点で単語になっていないといけない』
ことに着目してください。

そして、あなたの手元にある国語辞書を手に取って、ア・カ・サ・タ
それぞれの行のページ数をよく見比べてみてください。


…分かりましたね?

そうです。 ア・カ・サ行などはページ数が多いですが、
ナ・マ・ラ行などは極端にページが少なくなっている。

つまり、先頭文字によって、単語の総数に片寄りがあるのです。



実際に『もじぴったん』をやってみれば痛感すると思いますが、
動詞・形容詞の最後になりやすい『う』『い』『る』や、
音読みの最後に来やすい『ん』などは本当に使い勝手が良く

逆に、『ゆ』などに出られると、
一瞬、コントローラーを持つ手が止まってしまったりします(笑



これは想像ですが、作り手は最初にゲーム中で使用できる
単語データを登録しておき、そこに使用されている文字から
「優位な文字パーツ」を導き出したのではないでしょうか?

そして、難易度の低いステージでは
プレイヤーの手持ちに「優位なパーツ」を…

高難度ステージではその逆を行うことで、バランス調整を行ったのでしょう。


さらに、ステージごとのそれらパーツ群の並びを工夫して、
上から順に読むと「ある程度の文章になる」ようにしてあるあたり、
作り手の遊び心と深いこだわりに驚嘆させられます。







■第3章 『商品としてものすごい』


前章のようなシステム面での努力もさることながら、
当作品の商品としてのこだわりは相当に深いものがあります。


『シンプルで平面的な絵柄ゆえに、
リアル志向のグラフィックが並ぶゲーセン内での視覚的差別化に成功』


『一般プレイヤーを意識した、
細部まではりめぐらされたカラフルでポップな雰囲気や音声』


『単語を作るたびに、その意味が表示される』

『ステージが進むと、フィールド自体に移動要素が加わり、
パネル配置にさらなる工夫を要する』


『作った単語によって、プレイヤーの嗜好を
大ざっぱに分析して性格診断を行う』



…などなど、「ゲームシステムと直接関係無いじゃん」と
言ってしまえばそれもそうなのですが、細かい部分にまで
アイディアと気遣いをキッチリ投入した稀有なこだわりが、
地味な「文字パズル」を1流の商品にまで押し上げた…

その意味で『もじぴったん』は、プロの作り手にとって
実に大きな教材価値を持つソフトだと断言できます。





ただ、正直なところを言ってしまうと…

商品としてものすごく感動した『もじぴったん』ですが、
僕自身は100ステージ中、30ステージぐらい
進んだところで飽きてしまったのです。

この批評を書くまで、1年半ほど、ほとんどさわっていませんでした。



当ゲームは先述のとおり、
「パーツごとの優位性」を作者側がある程度コントロールすることで
ゲームバランスを保っています。

それが逆に、『テトリス』『上海』のような
乱数の果てのバランスも受け入れて楽しむ 僕のような人間にとって、
製作者の手のひらの上で楽しまされているような技巧さが
逆に鼻についてシラけた… のだと思います。


攻略法にしても、「優位性の高いパーツ」を魚の骨のように並べ、
その隙間を「単語になりにくいパーツ」で埋めていく…

といった確率的に有利な戦術が見えてしまうと、あとはその繰り返しで、
なんか自分の中でハラハラ感が無くなってしまったのです。


これはシステム的欠陥というより、「文字パズル」の持つ限界であり、
むしろそのラインをここまで押し上げた製作者の努力を
高く評価すべきだと、理屈では分かっているのですが…



これはまあ、単に「自分には合わなかった」
というレベルの問題だと思います。

一般の方には充分お勧めできるレベルです。
パズル好きなら、迷わずお試しになって下さい〜。






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