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『迷いの洞窟』




 筆者プレイ内容 : 現在、ステージ12

 制作 : ガンマ

 執筆日 : 2009年 07月31日






■第1章 『依頼』


それは、2009年7月のある日の事でした。

ガンマさんという方から
「自作ゲームを批評していただけませんか?」という
ちょっと驚きのメールを受け取ったのです。


ネット上で10年近くゲーム批評をしてきた自分ですが、
ゲームを作った本人から批評の申し出があったのは初めて

個人的に忙しい時期だったのですが、
ちょっと「思うところ」があったので、
この依頼を受ける事にしました。
(その理由については、最後に説明します)



ちなみに今回は、いつものような
「システム」 ⇒ 「良いところ」 ⇒ 「悪いところ」という順番ではなく、
この作品をさわりながら感じた感想を
なるべく時系列どおりに再現して書いてみました。

普段のうちの批評に慣れている方にとっては混乱するでしょうが、
1テストプレイヤーとしての視点を重視した結果です。



というわけで、今回ご紹介するのは、『迷いの洞窟』
倉庫番タイプのパズルゲームです。







■第2章 『グラフィックは苦手?』




『グラフィックが分かりにくい』


ゲームをスタートしてまず迷ったのが、
「何をすればよいか?」でした。




取りあえず、そばに設置されていた機械
『セーブ・ロード』のための物と分かったのですが、
あと周りにあるのは上に向かってトゲの生えている罠だけ…

迷った挙句、取りあえずダメージ覚悟で触れてみるか、と、
にさわったところ、なんと次フロアに移動しました

どうも、穴から突き出たハシゴを
真横から見たグラフィック
だったようです。
(あるいは、昇降棒?)




これは、ハシゴの角度を変えてやると、
より分かりやすくなると思います。(下は一例です)







次の面に進んでからも、少し迷いました。




画面下部にある、影のついた2つの岩
ゴールをふさいでいます。

『倉庫番』タイプの当作品なので、
おそらくあの岩を押すかなにかするのでしょう。

ただ、あの岩を上から押しても、
その先のゴールが引っかかって動かせない
はず…
しかも、それ以外の方向からは押せそうもない。
一体どうすれば…?


ここも、取りあえず試す意味で、
岩を上から押してみる事にしました。

すると…




岩が消えてしまった!?


…いや、「岩の影」だと思っていたものが、
実はだったのです。


この時点で、この作品の作者さんは、
あまりグラフィック関係を得意としていないのかな?

と感じました。(個人制作ではよくある事ですが)



また、岩によって地面の穴をふさぎ、
自分の移動経路の確保を行なう
流れに、
『パワー倉庫番』の匂いを感じました。







■第3章 『良い個性』




『面の最初のメッセージ』


2面、3面と進むにしたがって、
1つ気がついた事がありました。

ステージ開始時に、必ずメッセージが出るのです。

しかもそれは、
自分より前にこの迷宮に入った者が
残したメモ
のような内容です。




実はこれ、各面をクリアするためのヒントになっているのです。


単調になりがちな固定画面パズルに、
変化とぬくもりを与えるという意味で、
良いアイディアだと感じました。





『倉庫番の荷物に与えた、新たな役目』


また、この面をよく見てみると、
従来の『倉庫番』なら押して動かすだけの『岩』(荷物)
面白い役目を持たせていることに気がつきます。

階段を使って上に乗ることで、
歩いて渡れる『動かせる橋』として
使うことができる
のです!


自分は『倉庫番』関係のゲームは詳しくないので
ちょっと自信が無いのですが、このアイディアは
(少なくとも同人レベルでは)今まで見たことがありません。

かなり凄い… というか、
これをまっさらな状態から独力で生み出したのだとしたら、
アイディアだけならプロに匹敵すると断言します。


「軽くでもいいので、自分のゲームを批評して下さい」
というのが、作者であるガンマさんの依頼だったのですが、
このアイディアを見たあたりから、
『これは、サラリと流すわけにはいかないな』
と感じ始めた自分です。

つまり、自分の批評の基本姿勢である
『自分の勉強になる作品』としての価値が、
この作品にはあるのではないか?

と、気がつきはじめたのです。

こうして、当初は1〜2日で
終わられるつもりだった当作品への批評が
ジワジワと期間を延ばし始めました。







■第4章 『実は玄人』




『魔法は本当に必要か』


おそらく4面で、多くのプレイヤーは
首をひねることになると思います

画面左下にゴールがあるのですが、
そこに行くための細い通路に、なぜか入れないのです。




実はこのあたりから
『魔法』を使う必要が生まれてくるのです。


この面で必要な魔法は「SCREEN」
使用すると、自分いる場所の横方向のカベが
全て透けて見えるようになります


それによって、この面の細い通路には、
なんとズラリと穴があいていたことが判明します。

つまり、それらの穴を岩で全て埋めないと
ゴールインできないのが、この4面なのです。



魔法の使用にはMPを使いますが、RPGのように限りがあるため、
必要なときに「SCREEN」が使えないとハマリの危険もありえます。

ただ、消費MPは、
4秒ほど使用(スペースキーを押している間)して、
ようやく1減る程度。

面が進むたびにMPは一定量回復するので、
まず枯渇する心配は無いでしょう。


一方で、
『それなら、本当に「魔法」という要素は必要なんだろうか?』
という疑問も浮かびます。

「SCREEN」(透視魔法)にしても、
フロアをより真上に近い視点で見るような構成にすれば、
無くてもいい要素
といえます。

この辺りには、一考の余地があると感じました。





『実は玄人嗜好』


4面を越えたあたりから、
自分の中で、当作品に対する
正確には、作者であるガンマさんに対する印象
変わっていくのを感じました。


最初の頃は、
「グラフィックがもう1つで、BGM・効果音も付いていない、
素人制作者によるゲーム」
ぐらいに思っていたのですが…

4面を解いたときに『岩が余らなかった』こと…

6面という早い段階で、下写真のような
比較的高いテクニックをすでに要求していること…





…などから、
『このガンマさんという人は、実は
倉庫番系ゲームにかなり造詣があるのではないか?』

と感じ始めたのです。



その思いを決定づけたのは、
7面で悩んだときでした。(下写真)




一見すると、周りにあいた穴を
ガンガン岩で埋めていけばいいように見えがちですが…

階段の配置をよく見てみると、
画面右上から左下まで『岩の橋』を作らなければならず、
実はかなりの数の岩を、穴を埋めないように
移動させる必要がありそう


つまり、見た目以上にテクニカルなフロアらしいのです。
まだ7面なのに…


そこで、ガンマさんのサイトにある、
当作品のヒントを見に行ったところ、
そこに書かれていたのが下の一文です。



自信作です。

このステージでは穴が大量にありますが
実際に埋める穴は一つです。





ここに至って、「ああ、やはり」という思いがしました。

自分が4面ごろから感じていた匂いは、正しかった。
この人は、「ちゃんと分かって」面を作っていたのだ、と。

適当にチョイチョイと岩が配置されているわけではなく、
きちんと取り組まないとゴールに至れないストイックさ
必要最低限まで切り詰め、磨かれた配置

この作品には、『制作者の真剣さ』が内包されているのです。



こうして、短期間で終えるはずの批評は、
気づけば1週間以上を要するものにふくれあがり、
このような長文になりました(笑)







■第5章 『今後に向けて』


本当はもっと先のほうまで攻略したかったのですが、
先述のとおりちょっと忙しい昨今なので…

現時点の紹介は、この辺りにとどめようと思います。


ここまでの紹介をお読みになって興味を持たれた方は、
ぜひ、下記のリンクから『迷いの洞窟』をダウンロードし、
体験してみることをオススメします。


『迷いの洞窟』ダウンロードページ

(↑『迷いの洞窟』は、続編『Puzzle of soul』が開発されたため、
09年9月を持って公開停止になりました。)



11面あたりから、
「穴」と「岩」の能力をあわせもった『魔力の岩』も登場し、
倉庫番と似て非なるシステムに驚かれることでしょう。





なお、前述以外で、
改良の余地を感じた点を、以下に列挙します。



『BGM・効果音は、最低限ほしい』

最近は、「無料素材」として
自作のBGM・効果音を配布してくださっている
サイトさんも多数存在します。

そういうサイトを探して、力を貸してもらえば、
より良い雰囲気の作品になる事でしょう



『「1手戻し」がほしい』

「面の最初からやり直し」の機能は付いていますが、
ウッカリ岩を押してしまうなどの小さなミスだけで、
その面を1からやり直すのは、やはり苦痛です。

『1手戻し』機能を付けることで、
より手軽に挑戦できるゲームになる事でしょう。



『HP・MPは、いらないのでは?』

RPGの雰囲気を取り込んだのは面白いのですが、
ゲームとして煩雑になっているようにも感じます。

取っ払っても良いのですが、
あえてその雰囲気を残すとしたら…


★面の始めに、HP・MPが完全回復する

面によっては、ギリギリいっぱいまで使わないと解けない場合もあるが、
工夫をすれば必ず規定HP・MPの範囲内でクリアできるため、
それがかえってクリアのヒントになる事もある。



といった料理の仕方は、どうでしょう?



『セーブは1面ごとに』

HP・MPの使いすぎによるハマリを
回避する意味があるのでしょうが、
10面ごとにしかセーブできないのは、やはり敷居が高いです。

前述のとおり、HP・MPを再検討し、
セーブを1面ごとに自動的に行なえば、
より手軽に当作品のゲーム性を楽しめるようになると思います。







■第6章 『さびしさと、うれしさと』


今回の批評依頼を受ける気になったのは、
ガンマさんのメールの中にあった
『知り合いにプレイしてもらってはいるものの
批評してくれる人が少なくて…』
の一言でした。

その言葉に、ここ10年ほどの自分の、
切なる心の叫びがかぶったのです。


作品を作る者なら誰でも、
それがある程度「本気度が高く」なってくるにしたがって、
友人が批評らしい批評を返してくれなくなる寂しさ

というものを、経験しているのではないでしょうか?


「おもしろい」とか「なんかカッコいい」
ぐらいの感想なら、いつでも返ってきます。

でも、『具体的にどこがおもしろいのか』、
『具体的に何にカッコよさを感じたのか』

という部分になると、途端にアイマイになってしまう。

友人である彼らは最初から「ユーザー止まり」なので、
作っている我々のような、プロの覚悟を持った批評的視点で
作品を見てはくれないのです。



それが悪いという事ではなく、
「当たり前の現実」だという事はもちろん分かっています。

ですが、理屈でそれが分かっていても、
この心の中の寂しさはぬぐえるものではありません。

作品を突き詰めるほど、
自分自身との戦いに収束してしまうのは、
物作りの宿命なのでしょうか?




友達が自分の作品をほめてくれるのは、確かにうれしい。

でも、自分が心から欲しているのは『批評』なのだ。

それが具体的で理論的なものなら、
『クソゲー』という結論すら甘美に聞こえる。


なぜなら、
『理論的な批判こそが、
自分が今後成長すべきただ1つの指標』

だからです。



僕がガンマさんの作品を批評する気になったのは、
きっと今の自分の寂しさと似たものを、
彼の中に感じたからだと思います。

それは、他人の身を借りて、
自分の寂しさを埋める行為
のようで、
我ながら苦笑させられますが…

そうしたキッカケが元で、
結果的にこうした気概のある秀作に出会えたのですから、
本当に人生は不思議ですね。


今回の批評依頼を受けて本当に良かったと、
今では思っています。







■第7章 『その後』


今回の批評のアップ前に、ガンマさんに内容確認をしたところ、
新たに以下の真相(笑)が明らかになりました。



『最初はゼルダ的なパズルを目指した』


当初は、GB版のゼルダ(夢を見る島?)のように、
「ブロック押したりアイテムを使って謎を解く感じのゲームを作りたい」
という事で、大ざっぱにスタートした企画だったそうです。

でも、なんで「ゼルダ」から
こんな倉庫番タイプのゲームになっちゃったのでしょう??

その理由は、下のとおりです。



『弟さんのバックアップがあった』


「ゼルダ」タイプで作り始めたゲームですが、
アレコレあって行き詰まりを感じていたそうです。

そんな時、弟さんがプレイしている
「ポケモン パール」が目に止まり、
紆余曲折あって『倉庫番』タイプに変化していったそうです。


しかも、弟さんがそのテのゲームに適正があったらしく、
作ったマップをすぐに解かれてしまう。

解かれてなるものか!と、マップを修正する。

そんな行為を繰り返すうちに、
配置が熟成していった、とか。


良いゲームができる過程には、
良いテストプレイヤーが必須ですが、
期せずして弟さんがその役目を担ってくれた
のでしょう。

うらやましい限りです。





ちなみに、あれからすぐ続編の開発を始め、
バージョンアップ版が完成したそうです。

タイトルは、『Puzzle of soul』

こちら の作者さまブログから、ダウンロードが可能です。

『迷いの洞窟』に興味を持たれた方は、
お試しになってみてはいかがでしょう?






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